「あーえっと……冬木っていったっけ、今朝は悪かった」

 とりあえず謝っておこう。そして帰ろう。

「あ! 朝のことは気にしないで! というか名前覚えてくれてたんだね!」
「そりゃあ覚えるさ」

 真横で左耳が痛くなるほどの自己紹介をされたのだ。俺だけでなく、教室中の誰もが一発で覚えただろうさ。この俺が覚えられたのだからまず間違いない。

「私のことは千歳って呼んでね!」
「いや、冬木でいいや。それじゃ俺帰るから」
「え、あ……いやいやいや! 待って! まだ話があるから!」

 どうしてか、一瞬言葉を詰まらせたかと思えば、冬木は慌てたように俺を引き止めてきた。

「俺はない。それじゃ」

 それでも俺は容赦しない。
 制止を振り切り、教室を出るべく歩き始める。
 今朝の件もあって、この子に冷たい態度をとるのはそれなりに心が痛むが仕方がない。こういうのは最初が肝心なのだ。

「待って、それじゃあせめてひとつだけ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「部活、何部に入るの?」

 先程までとは打って変わって、顔に見合った真面目で儚げな表情でそう訊ねてきた。