どうしてこうなってしまったのだろう。
 ただ道を歩いていた。たったそれだけなのに、突然全身を包み込んだ何かに押し流されて、打ち付けられて、四肢がありえない方向に曲がってしまった。

 手足に力が入らない。
 息が苦しい。痛い。
 何も見えない、何も聞こえない。

 とてつもない勢いで体から熱が奪われていくのが自分でもわかる。
 嫌だ、死にたくない。こんなところで終わりたくない。
 そう思っていても現実は変わらない。

 次第に体の感覚が薄れてきた。苦しさも痛みも、冷えていく体の感覚も、もうどこにもない。
 あるのは「俺は今から死ぬんだ」という実感と、大事な約束を果たせなかったという後悔だけ。

 ごめんなさい。
 動かない体の代わりに心の中で何度も懺悔する。
 走馬灯というのだろうか、体の感覚が無くなるにつれて心の方が騒がしくなってくる。映画でも観ているように、過去の出来事が次々と脳内に映し出されていく。

 ――いつか、県大会で優勝してみせる。

 遠い昔に交わした大事な約束は果たせそうもない。ようやくチャンスを掴んだというのに。

 ――絶対に勝ってみせるさ。

 そう誓った相手に、どんな顔を向ければいいのだろう。
 いいや、見せる顔などもうどこにもない。俺はこれから死ぬのだから。

 ごめんなさいと、何度も何度も繰り返す。
 繰り返すうちに心がすり減っていったのか、段々と頭も回らなくなってきた。
 まるで眠りに落ちる直前のようだ。自分が何者なのか、今の今まで何を考えていたのか、もうわからない。
 ただ、後悔だけははっきりと心に残っていた。

「こんなところで……死にたく……ない」

 最期に振り絞った言葉は誰かに届いているだろうか。
 それすらもわからないまま、俺は――――。