身構えていたのに、土曜も日曜もあっけないほどなにも起こらなかった。
それどころか、ずっと感じていたもののけの気配もまるでなくて、今までより快適なくらいだ。
銀髪の彼が蜘蛛を倒してくれたからだろうか。
しかし私を餌だと言った彼は、『お前は狙われている。気をつけろ』と警告していたので気を抜くわけにはいかない。
それに姿を消したあの蜘蛛が、完全に消失したのかどうか不明だ。
もしかしたら逃げただけという可能性もある。
月曜に出社したが、深沢さんの姿はない。
彼はあれからどうなったのだろう。
「あやめ、おはよ」
「おはよ」
廊下で出くわした真由子がすがすがしい笑顔であいさつをしたあと、私を手招きしている。
首を傾げながらついていくと、あまり使われない階段の踊り場に到着した。
「どうしたの?」
「今、噂を聞いちゃって」
「噂?」
彼女は周囲に人がいないことを確認してから話しだした。