「それでは、姉上が話していた急な来客というのは、リュド殿のことだったんですね」

 四人が応接間のテーブルに着いた頃、アガタがカートを押して飲み物を持って来てくれた。
 それを並べて貰っている間、モニカたちはヴィオーラから詳細を聞いていたのだった。

「そうです。国からリュドヴィック様が我が国に入国を希望しており、その身元保証人として我が家を指名してきたという話を聞きました」
「でも、どうしてお兄ちゃんは、お姉様を指名されたんですか?」
「最初、リュドヴィック様は、入国時にモニカさんを身元の保証人として指名されたそうですが、身元保証人になれるのは爵位が伯爵以上の者のみとなります。そこで、モニカさんの義理の姉であり、侯爵の爵位を持つ私の話を聞いたリュドヴィック様が私を指名し、その話が私に来ました」

 レコウユスとガランツスが友好関係になったとはいえ、両国を行き来するには厳しい審査と、入国するに相応しい余程の理由が無ければならなかった。
 加えて、国に滞在している間に、その者の身元を保証し、滞在先を含めたその者の滞在中の責任を負える者が必要であった。

「そうだったの? お兄ちゃん」

 モニカが尋ねると、隣に座っていたリュドヴィックは「ああ」と頷いたのだった。

「モニカさんとリュドヴィック様が兄妹(きょうだい)であることは、マキウスがモニカさんを花嫁として迎え入れた時に、私も独自に調べて知っていました」

 マキウスに視線を向けると、マキウスは不機嫌そうに「なんで、姉上がそこまで……」と小声でぼやいていた。
 それをマキウスの隣席に座っていたヴィオーラが、肘で突いて黙らせたのだった。

「また、リュドヴィック様の入国理由が、「この国に嫁いだ妹に会う為」ということでもありました。それで私がリュドヴィック様の身元の保証を引き受けました」
「そうだったんですね。すみません。お姉様。お手間をお掛けして」

 モニカが申し訳なさそうに話すと、ヴィオーラは「気にしないで下さい」と、首を振ったのだった。

「兄妹が会えない悲しみを、私は知っていますからね。会える内に会った方がいいです」
「そうですね。私もそう思います」

 ヴィオーラとマキウスの姉弟は、ウンウンと頷いた。
 二人には、互いに会いたくても会えなかった時期があったから、尚更そう思うのだろう。
 
「そうですね。おふたりがそう言うのでしたら」
「私からも礼を申し上げます。ブーゲンビリア侯爵殿、ハージェント男爵殿」

 リュドヴィックが頭を下げると、姉弟は首を振ったのだった。

「礼には及びません。それと、私のことはどうぞ、ヴィオーラとお呼び下さい。畏まる必要もありません」
「私もマキウスと呼んで下さい。リュド殿はモニカの兄上。ならば、私たちの家族も同然です」

「そうですね、姉上?」と、マキウスがヴィオーラに問うと、ヴィオーラも頷いたのだった。

「私たちがこういう話し方なのは……まあ、子供の頃からの癖の様なものですので、気にしないで下さい。モニカさんも、私たちの前ではもっと楽にして下さい」
「はい。お姉様」
「ありがとうございます。なら、お言葉に甘えさせて頂きます。私のことも、どうかリュドと呼んで下さい。ヴィオーラ殿、マキウス殿」

 そうして、ヴィオーラたちと暫し談笑をすると、モニカとマキウスは屋敷に帰宅したのだった。