騒がしいカラオケが終わりそれぞれが家に帰ると思っていると、盛り上がっていたのか次の場所に行こうとした。
ここしかないと思い、私はそこを抜けた。
手を振って見送ると、肩の力が抜けてため息がこぼれる。
「そんなに疲れたんだ」
 後ろから声が聞こえて声を出して驚いた。
そこには先ほど話していた結月が笑って立っていた。
「びっくりさせないでよ」
「そんなに驚く?」
 年齢のせいか、それとも、汚れた心のせいかもうこのテンポについていけない。
「みんなと次のところに行くんじゃないの?」
「俺も疲れたから。それに……」
 それに。という言葉に私は少し緊張した。
何もないことはわかっている。
ただこういう時には女の気持ちが出るんだなということに気づく。
「それになによ」
「さとみん面白いからもう少し話したかった」
 からかわれている。そうとしかとらえられなかった。
もう帰ろう。早く寝て明日の仕事に備えよう。
呆れた顔を見せてその場を去ろうとすると、結月はその後ろをついてくる。
「なんでついてくるのよ」
「家まで送ってあげる」
「いい迷惑です」
「なんでそんなに冷たいの?」
 それもそうだ。出会ってまだ何時間という年下を相手になぜ腹を立てているのだろう。
いつもはなんでも笑顔で対処してきたはずなのに。
それに気づいて私は作り笑顔を見せる。
「じゃあ、ここで」
「作り笑顔じゃなくて普通にしてよ」
 作り笑顔がバレることに驚く私と面倒になってくる私がいて帰りたいという気持ちが強くなる。
「じゃあね」
「待って」
 歩き始める私に結月の声が引き止める。
「連絡先教えて」
 年下で出会ったばかりの彼になぜ教えなければならないのか。
でもここで連絡先を教えれば帰れる。
早く帰るか、相手をするか。
答えは帰るだ。
「わかった。そしたらついてこないでね」
「了解」
 その言い方も若いな。
と思うとやはり年の差を感じていた。
これで私はまたいつもの生活に戻るだろう。
こんなに騒がしくなったのも、人に素を出すのも初めてだった。
素なのかはわからない。
でも自分の中で何となく心を開いているように感じたのが悔しかった。