後輩に無理やり連れてこられたのはカラオケ。
周りを見るとやはりみんなが若い。眩しいぐらい。
将来がまだまだ変わるんだろう。
そんな期待を持てるんだろう。
そう思って私は出入り口に一番近いソファの端に座っていた。

 周りを見ていると、自分が本当に愚かだと思う。
悪い関係。家庭を壊していく行為。
全てが私の人間性を汚していく。

 その場にいる男子二人と後輩を含めた女子が流行りの曲で盛り上がっている。
「ねぇ」
 耳元で声をかけられ、驚いて思わず肩に力が入る。
見ると、そこには一番若いであろうと思われる男子が私の横に座った。
「なんで歌わないの?」
「いや、年が違いすぎるから曲も……」
 私は早く離れたかった。
その子の目は私には眩しすぎると思って。
「何歳なの?」
 女性に年齢を聞くとは何事かと一瞬思う私。
答えたくもない。でもこの子のまっすぐな目に吸い込まれるようだった。
「29。もうすぐ30歳」
「へぇ。そうなんだ」
 聞いておいて興味のないような返答をする。
もうやめよう。会話をしても年齢を感じるだけだ。
それでも彼は諦めなかった。
「名前、里美だよね?」
「そうだけど……」
「じゃあ、さとみんだね」
「は?」
 いきなり馴れ馴れしく呼ばれたあだ名に返す言葉もなかった。
「俺は宇野結月。聞いてなかったでしょ、さっき」
 確かにその通り、名前なんて聞いていなかった。
でも一応言葉は返そうと何とか言葉を振り絞る。
「じゃあ結月君?」
「結月でいいよ」
 この自信満々な表情と会話を聞くとさぞかしモテるんだろうなと思う私。
もっと前に出会っていたら違うように見えていたのかもしれない。
でもこの年齢の私にはダメだと思う。
「何歳なの?」
「大学生」
 結月のつぶらな瞳はやはり吸い込まれるようだ。
でもその瞳を見てふと思い浮かぶのは、一彦の顔だった。
昔だったら、こんなつぶらな瞳を見せてくれていたのに。
今ではお互いが純粋な心から何から全て失っているんだろう。