冬の訪れを知らせる風が私のため息を運んでいく。
もうそろそろ冬服とかマフラーとかを出そうかなと一人考えて歩く。

 打ち合わせのあの後、結月はさすがに優人さんの前だからかしつこく私に話しかけなかった。優人さんはいつも通り笑顔で私と別れた。
ふと我に返った時、私は首を振った。
「なんであんな年下のこと考えてるんだろう……」
 私は自分の頬を軽くたたいて忘れようとしていた。
「里美」
 急に私の名前を呼ばれたとき、私の心臓は大きく鼓動した。
なぜならその声は私が一番好きな声だったから。

 振り返るとそこには一彦が立っていた。
「どうしたの、頬なんか叩いて」
 あ……
と思わず動揺する。それは心の中だけではなく言葉もそうだった。
「なんでもない、よ。心配しないで」
 自分でもどんな声をして、どんな力具合なのかわからない。
それでも作り笑顔を見せていた。
「そっか」
 作り笑顔から見える景色がだんだん寂しくなっていく。
今日は一彦と約束していない日。
つまり偶然会ったことになる。
もちろん、予想していなかった一彦もいつものような笑顔も好意も見せてくれない。
「ミサさん、待っているんでしょ。早く行ってあげなよ」
 自分の本心とは裏腹に偽りの言葉を発している私。
「ごめんね」
 と早々に去っていく一彦の背中を見て思う。
この人は私のではなく、ほかの誰かのものになってしまったんだ。
背中が遠くなるたびに私の胸は苦しくなった。
こんな恋しなければよかった……
でもその気持ちも忘れるくらい一彦のことを想っているんだ。
そう言い聞かせている自分がどこかにいるような気がした。