「友人と?」

「…約束してたんですけどちょっとバックれられちゃったみたいで」


 こっちから三人が見えてるだけに嘘をつくのは心が痛いが、半分本当だから致し方ない。憤りを隠しつつ取り繕った笑顔が自分でも引き攣るのを感じるのに、逸人先輩は疑う余地もないようにはは、と軽く笑ってくれた。


「お前も大変だな」

「あはは…せ、先輩こそ放課後にこの辺いるの珍しいですね、いつも忙しいのに」

「あぁ、今日は部活が早く終わったんだ、所謂(いわゆる)時短メニュー。人間息抜きも肝心だろ、勉強にしても、部活にしても。あんま根詰めすぎると然るべき時に力発揮出来ないって見解で、顧問の許可が降りたらたまに飯行ったりすんの。今日はそのごく稀なたま(・・)の日」

「逸人の奢りでな〜?」

「三年の折半に決まってんだろバーカ」


 うわあ、青春っぽい。

 三年のサッカー部を代表する見目のいいチームメイトが先輩をからかうだけで、絵になるしまるでドラマか何かのワンシーンを眺めてるみたいだ。やめろ、とちょっかいを出してくる取り巻きを笑いながらいなす先輩は中でも誰より輝きを放っていて、やっぱり圧倒的な住む世界の違いを感じる。

 あんまり眩しくて目を細めているのがバレたのか、先輩は思い立ったように身を乗り出して俺の座席の背に手をかけた。


「波多野予定なくなったんだろ? なんなら一緒に来いよ」

「えっ!? い、ゃ俺は、」


 まで言ったところで向かいのテーブル席で俺だけに見えるように座った三人の、内田がぱくぱくと口を動かしているのが視界に入る。『は や く き け』。いや何をだ。ぶんぶんぶん、と思わず左右に首を振ると先輩が後ろを振り向いて、即座にあいつらは頭を引っ込める。なんだこれコントですか。


「遠慮すんなって、今からみんなでカラオケ行こうかって話になってんだ。後輩だから波多野の分は俺が持つ」

「で、でも俺音痴だし!」

「お、だったら尚更だ。お前かっこいいんだからさ、今後女子の前で恥かかないよう練習しないと」

「え、いやちょっと…!」

「お待ちど———————」