ドリンクバーを注文したのに席に着くなり一口飲んだだけのジンジャエールのグラスは、もう汗をかいている。底から上ってぱちぱちと水面で弾けて消える、いくつもの炭酸の泡が楽しそうに跳ねていたのも、ずっと前。

 散々考えあぐねて頭を掻きむしると、オレンジジュースのストローを含んでいた内田が見かねた様子で口を開いた。


「お前もうちょいしっかりしろよ。こっちは弓道部サボって来てやってんだぞ」

「いや部活行けよ」

「相棒がピンチなのにほっとけねーだろって。な、茜ねぇ一年の時向坂先輩と学年一緒だったじゃん。なんかそれっぽい話ないの」

「ない」

「即答」

「そもそもうちの高校にも首席で入学、その前に通ってた私立の中学でも文武両道で生徒会長も務めるほどの絵に描いたような優等生。そのうえあの見た目で性格じゃあな、教師間から一目置かれる存在だったってわけだ。
 弱点どころか非の打ち所がないんだよ。…いや待てよ。けど向坂逸人って確か」

「あれ、波多野?」


 その声に思わず飛び上がりそうになる。


 聞き覚えのあるよく通る声にその呼び名。背筋を正してぎこちなく振り向くとテーブルのその脇に、よく見る三年の人気グループ一群と逸人先輩本人が立っていた。

 健康的な適度に焼けた肌に真のイケメンこそが魅力を発揮すると言う(※ジル談)飾り気のない黒髪。よ、と軽く手を挙げる先輩に、思わず俺も目を見開く。

 
「奇遇だなこんなところで会うなんて、お前ひとり?」

「え? いや俺は友人と」


 まで言って既に俺以外がらんどうと化したテーブル席にギョッとする。え、ちょ、待てあいつらどこ行った、と慌ててキョロつけばちゃっかりそれぞれが頼んだメニューを持って物陰に隠れるお三方が全員こぞって頷いて親指を突き立てた。やめろその指へし折んぞ。