「文太、内田…いや」
切れ長の猫目にメンズライク系の黒髪ショート。ジルとは対称的に男勝りな茜ねぇの呼び名の由来は俺たちが一年の時に留学していて学年こそ同じでも年齢が一個上、からきている。
制服のスカートさえ履いてなきゃともすれば男と間違えそうな女前の風格は、俺と内田に一瞥をくれると真顔のまま呟いた。
「波多野ラブレター文太と呼んだ方が正しいか」
「内田ァアアアア!!」
光の速さでひっ捕らえれば内田は両手を挙げてさっと目を逸らす。
「誤解だってブン、おれは黙ってるつもりだったんだけど口が勝手n」
「さっきも聞いたわ!!」
俺の怒声すら「へーへー」とか言いつつ耳に小指を突き立てて聞く耳なし。こいつ本当に反省してんのか、いややっぱり内田に話した俺がバカだった! と後悔した途端肩に腕が回ってきて、身を乗り出した茜ねぇがニタリとほくそ笑む。
「詳しく聞かせろよラブレター文太」
「ミドルネームみたいに呼ぶな!」
☁︎
「相当面白いことになってんじゃん」
「だから笑えないんだって…!」
「お待たせしました、苺トロピカルホイップパフェチョコレートソーストッピングでーす」
高校生活も始まって二年もすれば、ちょっとしたアクシデントや話の「ネタ」が増えてくる。ましてや男女4人ともなると尚更だ。誰かが名乗りを上げると集会と称して、“いつメン”でこうして駅前のファミレスに集うようになってから、かれこれもうどれくらいになるだろうか。
テーブルに運ばれてきた全長30㎝のパフェを前に、ジルは目を輝かせて甲高い声をあげ、ポテトを摘んでいた内田はうげえ、と舌を出した。
友人が頭抱えてるってのに呑気でいーなお前ら。頭の中をマーブルにして青筋を立たせる俺の向かいで、茜ねぇはアイスコーヒーの氷をストローでカラン、と鳴らした。
「でも意外。ヘタレ文太にそんな根回しする度胸あったんだ」
「酷い言われようすぎる」
「ねーねー、茜ねぇはどーして透花ちゃんが向坂先輩から文ちゃんに乗り換えようとしてると思う?」
「そりゃよっぽど性癖がエグいとしか」
「お前らそればっかりか」