「で、その彼女が学園1の人気を誇るサッカー部エース・向坂(さきさか)逸人(はやと)の彼女藍沢(あいざわ)透花(とうか)だったと」


 休み時間の屋上にて、双眼鏡を手においしい牛乳のパックをずこ、と鳴らす内田の目線の先には先輩がいる。グラウンドで次の体育に備えてなのかジャージ姿で他の男子と戯れる姿に女子からは歓喜の声がわいた。


「お前の恋敵は今日も今日とて人気らしい」

「最悪だ…」

「何が気に食わないんだよ。お前贅沢だぞ? いわば王妃に目をつけられたんだ」

「そこが問題なんだよ…っ」


 サッカー部で人気を博す三年の向坂先輩は、俺が一年でまだ右も左もわからない頃助けてもらった恩義がある。きっかけは成り行きで任された体育祭の実行委員になった時で、例によって雑用の山に手を(こまね)いていた俺をさりげなくフォローして、あわや失態を犯してクラスから総スカンを食らう所を助けてくれた。

 それを機に学校でも顔を合わせたら必ず声をかけてくれるし、その時連絡先も交換したから試験勉強を見てもらったこともあるし何ならサシで出掛けたこともある。彼の友人曰く有難いことに、自分は先輩の中でも上位に位置する可愛がってる後輩の一人、なんだそうだ。

 見目がいいだけじゃなく勉強も出来て運動も出来て更には皆の人望もある。俺だってそんな逸人先輩はささやかな憧れだって言うのに。


「片や彼女である藍沢透花は入学するなり男子から満場一致の票数を誇る彼女にしたい子No.1。絶世の美少女はおろか才色兼備でおしとやかだし頭もいい。ま、じゃなきゃ入学早々あの人気者の彼女には抜擢されないわな、正に絵に描いたような美男美女に高嶺の花。噂じゃ今年の文化祭のミスもあの子だろうって女子は戦意喪失してるらしいぜ」

「え———っ!? そんなの気に食わなーい!!」


 俺と内田の間からひょっこり顔を出した茶髪ツインテールに絶句する。小柄な背丈に頰を膨らませた安定のぶりっこは、大きな目で空を睨むとぴょんと跳ねた。


「………おい内田…?」

「いや、違うんだよ。おれは言わないって決めてたんだ。口が勝手に」

「言ってんじゃねーか!」

「えーんせっかく今年のミスに備えて今から意気込んでたのに〜」

「つーかお前今日も匂いキツいな」


 クラスメイトで友人の本條(ほんじょう)桜子(さくらこ)、またの名をジル。あだ名の由来はいつもかの有名なあの香水を規定量超えで付けてるから。