ざ、と前から現れた強面の濱高生二人組に見下ろされ真顔のまま停止する。
 
「見つかっちゃった♡」

「…お前ほんと勘弁して」

 そこで、視界がシャットアウトした。


 ☁︎


 淀んだ空気、攻撃的なネオン、それから人、人人人。

 耳を(つんざ)くサウンドはまだ私の知らない大人の世界みたいで、足を踏み入れた瞬間何もわからない自分でも生きる世界がここじゃない、と教えてくれた。

 右も左も分からずに、だから知ってる逸人先輩の腕に頼る他なかったのに。そんな彼も、私を突き飛ばして「ごめんわざと」と笑った女性とフロアの方へ消えてしまった。

 舞台の上、一人用のソファに座ってその光景を何も言わずにただ黙って見据えている。

 まるで愛玩人形だ。


「透花」

 せめてここにいない、と思っていたくて目を閉じていたら声がした。端正な顔、その首元に幾つかの赤い痕をつけた逸人先輩はお酒らしい瓶をくっと一口含むと私に差し出してくる。黙って左右に首を振った。

「お前はほんっ…とに可愛いね。見た目だけ」

「…先輩もかっこいいですよ。見た目だけ」

「ちょっと優しくしたら勘違いして騙されたのはどこのどいつだよ」

「こんな人だと思わなかった」

「じゃあ別れればいいじゃん。そのかわりお前の一番大事なもんぶち壊すけどな」

 スカートの上から足の付け根に触れられて、身を硬らせた瞬間片手に頬を包まれた。そのまま近づいて来る見目だけで構成された人間のクズに、鼻を掠めるお酒の臭いに必死に身をよじる。「照れんなよ、」と低い声が耳を掠めて唇が頬に触れかけた瞬間、

「逸人さんヤバいです!」

 知らない強面の男の人が舞台下から叫んだ。
 お酒に浮かされているのだろうか、少し熱を孕んだ先輩がゆったりと振り向く。

「…なに?」

「なんかっ…わかんないんすけど昇降口で警備員が泡噴いて倒れてて! おれら以外に誰か入ってきた形跡が…っ」

「………」


 考えるように一度目線を上げた先輩が、静かに視線を滑らせる。それからとん、と私の顔の横に手をついた。

「…最近躾のなってない犬がいるんだよ。主人が目を離した隙にどうも他の人間が飼い慣らしたらしい。俺はそれを主人の女だって踏んでる。お前だったらどう思う?」