「あいつらの指示を待ってるだけ無駄だ。体育館なんて入り口は大体決まって一つだけど、うちみたいに二階の非常口から繋がってるパターンもある。そこから突破するぞ」
「二階の非常口パターン全国共通じゃないと思うけど」
「そうと決まればまずは北だ」
「茜ねぇそっち南っ…」
だぞと。伸ばした手が瞬間、明るみに晒される。
恐る恐る振り向くと、ガムをくちゃくちゃと噛んだ小太りの強面警備員が、俺と茜ねぇを照らしてにへら、と口角を引き上げた。
「………お前ら何やってんのかなー…?」
まずい。
「どけ文太!」
「! 茜ねぇ!」
渾身の肘鉄で小太り警備員がぶっ倒れる。とっさによけて振り向いたら技を決める茜ねぇに吠えられた。
「お前は先に行け! ここはあたしが食い止める」
「けどっ」
「藍沢を助けたいんだろ!」
技を決められて青くなる警備員と茜ねぇを交互に見て、こくっと頷くと脱兎の如く駆け出す。さっき昇降口で見た構内地図ならなんとなく頭に入ってる。もし強行突破しか術がないんなら、と無線に指を引っ掛けるとジ、と音が鳴った。
《はいこちら内田》
「内田! 茜ねぇがやられた!」
《茜ねぇに警備員がだろ。大丈夫あの人はゴリラだ》
「言ってる場合か! 正面玄関以外の体育館に繋がる道があるならさっさと教えてくれ!」
《うっちーチョコチップ味なかったよう。仕方ないからマカダミアナッツにした》
《おっと誰か来たようだ》
「お前ら何やってんだぁあぁあ!!」
アイス!? もしかして呑気にアイス食ってる!? 人が決死の覚悟で仲間置き去りにした瞬間に!? てかどこ買いに行ってたんだよほんと何やってんの!?
《違うんだよブン、腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ。晩飯食いそびれて腹ごしらえにちょっと》
「敵地でアイス食う戦士がどこにいんだよ!」
《ん、あれ? なんか音遠いな…一旦切ります》
「内田——————!」
ぶつん、と自分を呼ぶ声の途中で無線の電源をオフにする。
アーメン文太。もう会うことはないだろう、と合掌してから木のスプーンを咥えてジルからマカダミアナッツアイスを受け取る。そしてビニール袋を見た。
「ジル、頼んだもんちゃんと買ってきたか」
「あるものはねー。コンビニだからクオリティがいかんせん」
買いたてのサングラスをかけて可愛い?♡ とポーズを取るジルに普通、と答えたらぷうとむくれられる。
「あと偵察で裏口から出ようと思ったけど、もう結構人がいてそこから出るのは無理だった。遠巻きに見るのは見たって感じ。女の子髪の毛ぐりんぐりんのワンピースちょんちょんだったよ」
「いっそお前混じってもバレなかったかもな」
「うんうん、桜子今日ワンピだしそれもありかなって指くわえて見てたらさぁ」