交遊会は体育館で行われるという話だ。

 いくら濱高で今日が週末の金曜日と言えど、校門からぞろぞろと参加者が集えば顰蹙(ひんしゅく)を買うどころか警備員に見つかってしまう。

 そこで濱高生が使っている校舎の裏手に位置する塀の隙間(不祥事で穴が開いたものを看板で隠しているそうだ)から生徒は行き来しているらしい。

 ともあれ俺たちはあくまで参加者じゃない。目的は藍沢さんを奪還することだ。今時にしては校門すら錆びた南京錠一つのゆるゆるなセキュリティを潜り抜け、体育館を目指すべく昇降口の構内地図に目をやるとジジ、とトランシーバーがジルと内田の声を受信した。


《ねぇねぇたのしい! ミッションインパッションみたい♡》

《ポッシブルな》

《おもちゃのトランシーバー持ってきて良かったねっ》

「だからって無駄打ちすんな、遊びじゃないんだぞ」


 乗り込む前に二手に分かれよう、と切り出したのは内田の案だった。いくら濱高とあっても深夜警備員は必ず一人は存在するし、それを知ってて4人で動き回るのは余りにもリスキーだ。万一見つかってしまった場合をふまえ、茜ねぇと俺、そして内田とジル班に分かれた。それに校内の構造がわかっていないだけに、多方面から視野を増やしてルート展開が選べる方が有利…なのだが。

 相変わらずトランシーバーから聞こえて来る黄色い声にイラッとして無線を繋げる。

「おい! お前らちゃんとルート案内しろよ、こっちは方向音痴(あかねぇ)と一緒なんだぞ」

「文太お前今何と書いてあたしと読んだ」

《わーかってるって今だから構内地図見てんだろ? えーっと。体育館はー…昇降口から左行って真っ直ぐ行って右です》

「雑か!」

《仕方ねーだろ天は二物を与えずっていうだろ、物理優先したら特殊が低いのなんてよくあることじゃん》

「ゲーム? ゲームの話?」

《正面から行ったら秒で死ぬから気を付けろ、けどブンなら三機あるから行けるか」

「現実だから一機しかねーよ!」


 しっ、と茜ねぇに口を塞がれて身を伏せる。

 柱に隠れたその横を懐中電灯の光が横切って青ざめる。そのあとを目で追うと、やる気のなさそうな警備員がふらふらと歩いていくのが見えた。