「く、暗い…」
学校って、ただでさえ夜に見たらどこか物々しい雰囲気を纏っているものなのに。人生で決して足を踏み入れることはないと思っていた濱高の校門前、見上げた校舎は物々しさ、どころか陰鬱な空気が漂っていた。
気のせいか、心無しか空気も浅い気がする。
人見知り、ならぬ学校見知りだ。他の学校って目の前にしただけで部外者を突きつけられて尻込みする。それが濱高効果なのかはわからないけど、考えなしに俺私服で来ちゃったし。せめて制服着てこれば。ふるふると顔を振り、ごく、と生唾を飲み込む。
「よしっ」
「何やってんだよてめぇコラ!」
あれだけ飲み物はコーラにしろ、とかなんとか。怒号をあげながら自転車で通過した刈り上げの男の声に、光の速さで茂みの中にぶっ倒れた。どっどっど、と脈打つ鼓動が痛い。やだもう俺ここで暮らしたい。暮らさんけど。
逃げたい、帰りたい。安地にいることでそんなマイナスな感情に頭の中が占拠される。大体集会に一人で乗り込むってどうなんだ。武器は、腕っぷしは、俺そもそも喧嘩とかしたことあったっけ。ぎゅ、と目を瞑れば昨日の地獄絵図がせしめ、最後に藍沢さんの顔が浮かんでは消えていく。
…逃げない。———俺は、
「やっぱり考えなしの正面突破か」
「————————————」
全力で叫んだ悲鳴はみんなの手によって阻止された。
仰向けに倒されふー、ふー、と鼻で息をする俺に、口を塞いだ三人、
茜ねぇ、ジル、そして内田は呆れたように上から俺を見下ろしている。そしてしばらくしてそっと解放してくれた。
「やー。もうブンちゃんさすがすぎっ、お化け屋敷もナイスリアクションするタイプだね」
「イケメンの泣き顔見てると余計苛めたくなるけどな」
「…っみんな…なんで、」
乱暴に引っ張り起こされ、ぱん、と服の土埃を払われる。両サイドに立って笑う茜ねぇとジル、それから校門を前に「なんか暗くね?」と笑った内田は、俺の視線に気付くと不本意そうに口を尖らせた。
「“人の、誰かを想う感情は。
どんな理由があったって、蔑ろにされるべきじゃない”」
「!」
「お前がおれにそう言ったんだろ」
それブーメランだからな、と振り向かずに言われて呆然とする。未だ釈然としない脳味噌に、内田はまじ勘弁して、と額をぼりぼりと掻いてから吹っ切れたように振り向いた。
「…お前の生き方ってほんっっっと不器用で危なっかしくて下手くそで全然共感出来ないんだけどさぁ。
…友達が困ってるのにほっとけねーだろ」
そして、並んだジルも茜ねぇも軽く笑う。
「お前ら…」
「一週間パシリ券」
「新しい香水♡」
「人間サンドバッグ」
「お前ら(茜ねぇに関しては最後何?)」