…今日一日、なんかぼんやりしてる間に終わった気がする。
体育館で内田たちに相談してから、結局何の解決策も見出せなかった。でも出された課題を見るに自分が授業を受けていたのは確かで、でもその授業内容が何だったかもろくに思い出せない。ジルにはブンちゃんばいばい、って声をかけられた気がするけど、内田は気づいたら姿消してたし(そういうやつだけど)。
自宅の自室、自分のベッドに寝転んでスマホ画面を見る。無意識にTALKを開き、グループTALK画面をタップしてからいやいや、と目を逸らす。いや、でも、いや。
——————とそこで着信が鳴り響いた。
「も、もしもしっ!?」
《お前今スマホ見てただろ》
なんで分かったんだ。テレパシーか、それともどっかで見てんのか!? とベッドから飛び起き構えると《見てねーよ》が返ってくる。むしろここまで動向予測されてんだったら見られてる方がマシだわ。
聞き慣れた声の主に、何も言葉が出てこない。かろうじてあ、と声に出そうとしたら向こう側の内田が開口した。
《時間ねーから単刀直入に言うぞ。
今日の21時、うちのサッカー部の面子と濱高で交遊会があるらしい。そこに藍沢透花も来る》
「交遊会?」
《と言う名の乱行パーティーだろうなあの感じ》
「乱…なにそれ」
《ググれカス》
純な文太に話したおれがばかだった、と受話器の向こうから聞こえて意味がわからず首を傾げる。でもきっと果たし合いみたいなことに違いない。
《とりあえず藍沢さんの身が危ない。お前を突き放して彼女、自棄になってる可能性だってある、ブン。お前どうすんの》
試すように問われて、でももう答えは決まっていた。
八方美人の自覚はない。ただ、主体性がない。
他愛無い高校生活を送ってきて、だからこそ当たり障りがないように、大体のことには首を縦に振ってきた。任された日直の仕事も、掃除も、誰もやらない係さえ。けど。そこに俺の意思はいつもなくて。
誰かのためになるならって言い訳を付け加えて、自分を貫くことをどこかでずっと避けてたんだ。
簡単に頷けない。
それが俺の意志で首を横に振る理由なら、
今がきっとその時だ。
「人の、誰かを想う感情は。
どんな理由があったって蔑ろにされるべきじゃない」
《…死ぬかもよ》
「でも黙って見過ごせない」
俺は一人でも行く、とだけ伝えて電話を切る。
時刻は19:40。うちの学校までが徒歩で20分、そこから濱高までが15分くらいだから…21時の集会? までには十分に間に合う。その前に藍沢さんを奪還出来れば。
昨日見たサッカー部の先輩の姿が浮かんでは消えていく。手が震えた。冷や汗が出た。それらも全部顔を振るって取っ払う。上着を羽織りスマホを持って、俺は家を飛び出した。