「あんなに白熱してる二人初めて見たって茜ねぇが言ってよ」


 今日ほど部活に没頭出来るコンディションは無いというのに、そんな日に限って外周と基礎練だけで終わってしまった。
 帰るでもなく、駐輪場で自分の自転車に乗ってスマホをいじっていたら後ろに重みが降ってきた。

 そしてむわ、と即座に鼻にくる甘ったるい香りを肘でよける。

「お前あんま寄らないで匂い移る」

「あーっ! ひっどーい! 女の子にそういうこと言う!? 今日そんな香水付けてないし! 10滴くらいしか」

「十分だわ」


 肘ではなれろ、と言うのにいいじゃーんって背中にへばりついてくる感覚にぞわぞわする。ジルの頰が多分他の女子より圧倒的に柔らかくて子どもみたいなのが原因だ。黙ってればそこそこだけどウザいし匂いがキツいから堪らないと両手で降参を示したら、「桜子のかちっ」と甲高い声が届いた。


「あんな言い方なかったんじゃない。ブンちゃんしょぼくれてたよ」

「授業中もいつにも増して上の空だったしな」

「心友のうっちーに見離されたらそうもなっちゃうでしょ。可哀想だと思わないわけ?」

「全然」

「性格悪〜い」


 弓道の代わりに白熱していたアプリで呆気なく死んでしまい、画面を落とす。真っ暗な画面に映った自分の顔があんまり浮かない顔で、らしくなさすぎて笑えた。


「…ブンはさ。自分の感情に疎いんだよ。好きだって言われて相手が困ってたら助けてやりたいのはわからなくもない。けどそれって“優しさ”じゃないからな、だってもうそれあいつの意思じゃないじゃん」

「さっすが人たらしのブン! うっちーは風見鶏だけど、ブンちゃんはー…違う意味で流されまくってるね」

「芯がないとそうなる。で、あいつは今一人で答え出そうとしてる」


 そこにおれらがいたら一緒だ、と告げたら、またしても背中にごつんと重りが降ってきた。こいつ、一度ならず二度までも、と目線だけをくれてやったら、人の背中に額をつけたジルの前髪が風に少しだけ膨らんだ。


「人間くすぶってるよねー…わたしたち」

「なあ、お前今日の交遊会行く?」


 声は渡り廊下からだった。サッカー部と思しき男子生徒二人組が給水場で雑談している。


「自由参加という名の強制参加、だろ。オレらに選択権ねーじゃん、木内みたいになりたくねぇもんオレ」

「おれも。逸人に逆らったら何されるか…彼女に上手いこと言っとかないと」

「何時からだっけ」

「濱高の体育館に21時。遅刻厳禁、濱高生に何されるかわかんねーかんな。藍沢さんも連れてくっつってたからちゃんと粧し込んでこいよ」

「まじでこえー…」


 ぶつぶつ言いながら去っていく二人組を目で追って、それから後ろのジルと顔を見合わせた。