濱高の知り合いに相談したらあれだよ、と顎で指し示す。

 まるで四駆のおもちゃで遊ぶ子どもみたいな、屈託のない笑顔で。


「あーあーあー…あーんな取り乱しちゃって。あいつ、公然猥褻罪で逮捕されんじゃねーの」


 そうこうしてる間にも殴る蹴るを繰り返され続け、泣きながら土下座をするサッカー部の先輩は最後に素っ裸で土手の真ん中に放られた。通行人に悲鳴をあげられ、その中で響く泣き声と濱高生の笑い声はもう一種の地獄絵図だ。それを、全部この人が。

 逸人先輩が引き起こしてるんだって知って。

「なんで、」

 一瞬、立ち眩みがした。信じた全部を、壊された。

 憧れ、羨望、笑顔。その全部が嘘だったのか、と頭の中にどす黒い何かが濁流のように流れ込み、今までの逸人先輩の姿が押し流されて目の奥が熱くなった瞬間、

 くん、とネクタイを掴まれた。

「俺さ、お前には期待してるんだ」

「っ…!」

「あっと、内田くんだっけ。つまんねー牽制してくるからちょっと調べてみたら案の定。でも波多野は可愛い後輩だから“見本”で勘弁してやるよ。
 お前は賢い人間だから、俺の言ってる意味わかるよな?」

 張り付けられた笑顔が、直後ふっと真顔になる。


「あんまりがっかりさせんなよ」


 じゃな、と軽く手を挙げて踵を返す先輩に、即座に手すりを掴んで体勢を立て直す。高鳴る鼓動に、ひゅ、と風が吹く背後の階段を見てわかったことはとりあえず。


「…………いま…完全に突き落とそうとしてたよな…?」


 ☁︎


 翌日の休み時間。移動教室の合間、木陰のベンチでうなだれていると背後に人の気配がした。背中合わせになっているベンチだ。ふ、と視線だけを向けると両手に木の枝を持っている藍沢さん(樹木)がいた。

「………えっと…」

「昨日は波多野先輩にテントウムシさんになっていただいたので、今日は私が茂みになろうと思って」

「あ、うん…」

 なんかやっぱこの子変だ。

 ツッコむ気力もないだけに青筋を立たせて前を見れば、視界をまた蝶々が横切った。