「けど内田がキャラ崩壊してまでカマかけてみたのに結局なんの収穫もなかったな」

「…あ。そういやさっき茜ねぇ向坂先輩についてなんか言いかけてたじゃん。あれの続きは?」

「あぁ…いいよ、本当かどうかわからない話なんて迷信まがいだし」


 茜ねぇかーっこいー♡ と呑気に腕を絡ませたり気を取り直して追加デザートに手を出す女子二人に薄く目を開く。そのまま床の一点を見つめていたらとん、と内田に軽く小突かれた。


「…お前藍沢透花のラブレターちゃんと見たのか?」

「…実はまだ」

「よく見ろよ。そこに彼女の心を紐解く鍵が隠されてるかもしんねーよ」

「そんな謎解きみたいな言い方すんな」


 ありがとうございましたー、と客を見送る覇気のいい店員の声が、靄がかった頭の中で唯一鮮明に木霊した。


 ☁︎


 翌日の昼休み、俺は人気の少ない中庭のベンチで彼女からもらったラブレターに初めてきちんと目を通していた。

 そこには彼女の想いが、丁寧な字で綴られていた。

 見てしまったら終わりだと思い、知らず識らずのうちに自分が遠ざけていた、他の誰かの心。自分が置かれている今の境遇。それでも俺のことが好きだといった、

 きっと取り留めもなくて、かけがえのないこと。


「………」


 手紙を読み終えると、目を閉じて眉間に手を添える。

 さて、どうしたものかと考えて。


——————目を開けたら眼前に女子高生の顔があった。


「うぇあっ!?」

 勢い余って思わずベンチごと後ろにひっくり返る。え、待ってなに今のなんかいたやべーの見た昼間っからどうしよう。
 万歳をして無防備に倒れたままバクバクバク、と鳴る心臓をそのままに平和な空をガン見する。いやだまだ死にたくない、と衝動の余波で動けずに青ざめていたらさく、と耳元で草木を踏み締める音がして、

 かろうじて目だけを音の出所に動かすと、



 視界に藍沢さんの姿が映った。