唐突な内田選手のフレームイン。

 手を挙げながらさも今来ました(てい)を装った演出はこいつの十八番(おはこ)が猿芝居だから出来ること。待ったー? なんて台詞と共にぐんと肩に腕を回されて、それでもしっかり耳元で「このヘタレが」と俺に毒づくのだけは忘れないんだから抜かりない。


「えっ、と…」

「あ、どうもはじめまして! おれこいつの友人の内田ですー、いつもうちの文太がご迷惑おかけして申し訳ありません」

「おい」

「や、けどさすがは学園1のイケメン! 噂で聞いてたけど近くで見ると違うなあ! …ブンが霞んで見えら」

「後半素で言っただろ」


 自分は棚上げしやがって、と胸ぐらを掴むとギブギブギブ、と手の甲を叩かれる。本気でそろそろ渇入れてやろうかおん、となけなしのドスを利かせていたらぶはっと先輩が噴き出した。


「なんだよ波多野、お前一人だから寂しい奴だと思って心配したけどちゃんと友だちいるんじゃん」

「いや先輩俺は寂しい奴だと思われてたんですか」

「そーなんですおれたちめちゃくちゃ仲良しで! もーどこ行くにも一緒なんだよな、昼飯も便所も生徒指導室も」

「最後呼び出しくらってんだよ」

「けど野郎同士じゃやっぱ花がなくてですねー、彼女欲しーなって日夜嘆いてんですよ。あっ、そういや向坂先輩彼女いましたよね!? 二人最近どうなんすか!?」


 上手い。話の持って行き方が一見無茶苦茶だけど上手すぎる。

 初対面でここまでぶっ込んでこれるとは、さっきまでの話の流れからじゃ到底辿り着けなかった迂回ルート。さすがは口先から生まれた男、と感心して内田を見下ろす俺に、内田はあくまで“よそ行き”の笑顔の仮面を張り付けている。


「どうって」

「仲良くやってます? アオハル」

「あ、うん。部活で忙しいこともあるけど、透花とはなるべく時間作って会ってるよ」

「っか———! 透花! 藍沢さんのこと先輩下の名前で呼んでんすね、うわー滾る! さっっっすが学園1の美男美女カップルは違うなーおれらも二人にあやかりてー」