「たくさん取れちゃったなぁ。」
 雪月は生姜が大量に入った籠を抱えて厨へと向かった。今がちょうど旬なので、ついつい取りすぎてしまったのだ。生姜は生薬にも使えるが、もちろん食用にしても美味しい。
(お茶に入れる用と保存用、あとは半分に分けて醤油と甘酢に漬けようかな。)
 漬けておけば日持ちもするし、そのまま食べることもご飯に混ぜることもできる。
 雪月は一人で暮らしていた頃も料理はしていたが、食材や調味料の数には限りがあったため、同じようなものしか作っていなかった。そのため屋敷に来たばかりの頃は厨に立っても戸惑うことが多かったが、今ではすっかり作れるものも増え、毎度の食事を楽しんでいた。黒蓮はいつも美味しそうに平らげ、薬膳として訪れた患者に出せば、皆喜んでくれるので雪月も楽しさとやりがいを感じていた。
 やるべき家事を済ませたのでいつものように薬房に向かおうとすると、庭で黒蓮が屈んでいるのが視界に入った。気になった雪月は庭に出て、黒蓮の視線の先を追った。
「これは…狐花(きつねばな)の葉ですか?」
「お前はそう呼ぶんだったな。」
 そう言いながら黒蓮は立ち上がった。雪月が言った狐花とは彼岸花のことである。
「はい。母がそう呼んでいたので。彼岸花ってたくさん呼び方がありますよね。」
「ああ。真紅の花に、特徴的な形をしているから連想するものが多かったのだろう。人の考えは面白い。」
 黒蓮にとって人間が残してきたものは、形があろうとなかろうと大変興味深いものだった。
 彼岸花は、花が咲く時期や群生している場所から、死人花(しびとばな)、幽霊花と呼ばれたり、その特徴的な見た目から(きつね)松明(たいまつ)などと呼ばれたりすることもある。また、毒性に由来して毒花、痺れ花とも言われている。
「彼岸花は毒がある、とよく聞きますが薬にはならないのですか?」
 薬は毒にもなる。それは逆もあり得ることだ。