「単刀直入に話そうかな。用件というのは、四獣珠のことだ。きみたち、四獣珠を私に譲ってくれないか? 年単位の契約で貸してくれるだけでもいい」
衝撃が走った。息が止まる。海牙以外のオレたち四人、とっさに同じ仕草をしていた。服の上から、胸に提げた四獣珠に手を当てる。手のひらでそれを守ろうとするように。
海牙が、詰襟の内側から玄獣珠を引き出した。口元が笑っている。
「無理やり奪おうってわけじゃなくてね。実際、ぼくはこうして玄獣珠を身に付けている。総統のお話を耳に入れてもらえますか? 少し長いお話になるけどね」
平井が海牙の言葉を引き継いだ。滔々と語り始める。
「私は強すぎるチカラを持っている。それを抑えるために、全身に結界をまとっている。結界は、目の粗い網のようなものだ。さっきも言ったとおりだね。目の隙間から、小さなチカラはすり抜けてしまう。まあ、テレパシー程度なら、危険は少ない。私が使い方に気を付ければいいだけだ」
テレパシーを小さなチカラと言う。じゃあ、オレのチカラは? 人を傷付けたことがある。一生残るヤケドを負わせたことがある。このチカラも、平井にとっては小さいのか?
平井は、ゆったりと微笑んだまま続けた。
「私がまとう結界のエネルギー源が宝珠だ。宝珠のことは、どれだけ知っているかな?」
四獣珠も、宝珠の一種だ。宝珠は、代償と引き換えに人の願いを叶える。奇跡のチカラを秘めている。宝珠の預かり手は、能力を持って生まれる。オレたちのような異能の人間がいるのも、同じ数だけの宝珠がこの世に存在するからだ。
「むろん、私も預かり手の一人だよ。生まれたときから、このチカラを持っている。私が物心つくまでは、両親が苦労したようでね。結界の宝珠も、赤ん坊のころから身に付けていた。ところで、きみたち。宝珠にも等級があることを知っているかな?」
平井の問いに、オレと師央は首を横に振った。鈴蘭たちは知ってるのか。まあ、親から話を聞けないのは、オレと師央だけか。
平井が説明を続けた。
「宝珠にも等級があるんだ。四獣珠は中国大陸由来の宝珠だね。同じく中国大陸の宝珠を数えてみようか。まず、陰陽を司る二極珠。方位と季節を司る四獣珠。木火土金水を司る五行珠。五行の陰陽を区分する十干珠。方角と時間を区分する十二支珠。季節の巡りを区分する二十四気珠。星の巡りを占う二十八宿珠。比較的チカラの大きなもので、八十三の宝珠が存在する」
平井がしゃべった順に等級が高いのか? だったら、四獣珠は二番目だ。
「そういうことだ。母数が小さい宝珠ほど、等級が高い。つまり、叶えられる奇跡が大きい。四獣珠はチカラの強い宝珠だ。それを預かるきみたちの能力も、四獣珠のチカラの強さに均衡する形で、比較的高い」
比較的、という言い方に引っ掛かった。やっぱり上から目線じゃねぇか。
平井は小さく笑った。
「四獣珠は、二極珠に次ぐ等級だったが、数十年前から違う。私の先代のころ、二極珠が平井家に譲られた。今、もとの預かり手の家系に能力者はいない。二極珠はここにある」
平井が両方の袖をまくった。鈴蘭が喉の奥で悲鳴をあげた。平井の上腕に、宝珠が埋まり込んでいる。右に純白の。左に漆黒の。それらが二極珠だ。
平井は袖を元に戻した。
「不気味なものを見せてすまないね。私は、全身がこんなものだ。妻も初めは怯えていた」
喉が干上がっている。声に、それでも、力を込めた。
「四獣珠も、そうして取り込みたいのか?」
「すぐに、とは言わんよ。無理強いもしない。いきなりは信用できないだろう? ぜひ、海牙くんのように、じっくり私を観察してくれ」
オレは海牙を見た。海牙はうなずいた。
「総統は、ぼくたちより、はるかにお強い。ぼくたちを屈服させることは、本当は簡単です。でも、そうなさらない。おもしろいから、観察させていただいてます」
オレたちより、はるかに強い? どれほどのものなんだ? まさかハッタリじゃないよな? チラリと、そう思った。ケンカの血が騒いだ。
平井が、くすくすと笑った。
「元気なんだな、伊呂波煥くん。銀髪の悪魔と呼ばれる最強の不良、か。青春だね。うらやましいよ」
「バカにしてるのか?」
「いやいや、カッコいいなと思ってね。だが、ハッタリではないよ。チカラを見てみたいかね?」
平井の全身がぶわっと膨れ上がる錯覚にとらわれた。平井の気が爆発的に噴き上がっている。
【息を殺すのと同じように、気を体内に抑え込んでいたのだ】
声が轟いた。有無を言わせず意識に飛び込んでくる声が。
理仁が青ざめている。
「な、何だ、この声? おれの号令《コマンド》と同じ?」
【似ているはずだよ、長江理仁くん。発する言語が属する次元が同じだからね。ただ、決定的な差がある。私の声のほうが、はるかに強い!】
鈴蘭も師央も反射的に耳をふさいだ。違う。耳から入ってくる音じゃない。凄まじい大声。押し潰されそうな圧力。
【ひざまずけ!】
一瞬、自意識が粉々になった。気付いたら、オレは畳の目を見つめていた。膝を屈して、頭を垂れている。
何だ、このチカラ?
【言っただろう? 私は割と全知全能だと。私の能力は、掌握《ルール》。人間はもちろん、神羅万象すべてを支配する】
衝撃が走った。息が止まる。海牙以外のオレたち四人、とっさに同じ仕草をしていた。服の上から、胸に提げた四獣珠に手を当てる。手のひらでそれを守ろうとするように。
海牙が、詰襟の内側から玄獣珠を引き出した。口元が笑っている。
「無理やり奪おうってわけじゃなくてね。実際、ぼくはこうして玄獣珠を身に付けている。総統のお話を耳に入れてもらえますか? 少し長いお話になるけどね」
平井が海牙の言葉を引き継いだ。滔々と語り始める。
「私は強すぎるチカラを持っている。それを抑えるために、全身に結界をまとっている。結界は、目の粗い網のようなものだ。さっきも言ったとおりだね。目の隙間から、小さなチカラはすり抜けてしまう。まあ、テレパシー程度なら、危険は少ない。私が使い方に気を付ければいいだけだ」
テレパシーを小さなチカラと言う。じゃあ、オレのチカラは? 人を傷付けたことがある。一生残るヤケドを負わせたことがある。このチカラも、平井にとっては小さいのか?
平井は、ゆったりと微笑んだまま続けた。
「私がまとう結界のエネルギー源が宝珠だ。宝珠のことは、どれだけ知っているかな?」
四獣珠も、宝珠の一種だ。宝珠は、代償と引き換えに人の願いを叶える。奇跡のチカラを秘めている。宝珠の預かり手は、能力を持って生まれる。オレたちのような異能の人間がいるのも、同じ数だけの宝珠がこの世に存在するからだ。
「むろん、私も預かり手の一人だよ。生まれたときから、このチカラを持っている。私が物心つくまでは、両親が苦労したようでね。結界の宝珠も、赤ん坊のころから身に付けていた。ところで、きみたち。宝珠にも等級があることを知っているかな?」
平井の問いに、オレと師央は首を横に振った。鈴蘭たちは知ってるのか。まあ、親から話を聞けないのは、オレと師央だけか。
平井が説明を続けた。
「宝珠にも等級があるんだ。四獣珠は中国大陸由来の宝珠だね。同じく中国大陸の宝珠を数えてみようか。まず、陰陽を司る二極珠。方位と季節を司る四獣珠。木火土金水を司る五行珠。五行の陰陽を区分する十干珠。方角と時間を区分する十二支珠。季節の巡りを区分する二十四気珠。星の巡りを占う二十八宿珠。比較的チカラの大きなもので、八十三の宝珠が存在する」
平井がしゃべった順に等級が高いのか? だったら、四獣珠は二番目だ。
「そういうことだ。母数が小さい宝珠ほど、等級が高い。つまり、叶えられる奇跡が大きい。四獣珠はチカラの強い宝珠だ。それを預かるきみたちの能力も、四獣珠のチカラの強さに均衡する形で、比較的高い」
比較的、という言い方に引っ掛かった。やっぱり上から目線じゃねぇか。
平井は小さく笑った。
「四獣珠は、二極珠に次ぐ等級だったが、数十年前から違う。私の先代のころ、二極珠が平井家に譲られた。今、もとの預かり手の家系に能力者はいない。二極珠はここにある」
平井が両方の袖をまくった。鈴蘭が喉の奥で悲鳴をあげた。平井の上腕に、宝珠が埋まり込んでいる。右に純白の。左に漆黒の。それらが二極珠だ。
平井は袖を元に戻した。
「不気味なものを見せてすまないね。私は、全身がこんなものだ。妻も初めは怯えていた」
喉が干上がっている。声に、それでも、力を込めた。
「四獣珠も、そうして取り込みたいのか?」
「すぐに、とは言わんよ。無理強いもしない。いきなりは信用できないだろう? ぜひ、海牙くんのように、じっくり私を観察してくれ」
オレは海牙を見た。海牙はうなずいた。
「総統は、ぼくたちより、はるかにお強い。ぼくたちを屈服させることは、本当は簡単です。でも、そうなさらない。おもしろいから、観察させていただいてます」
オレたちより、はるかに強い? どれほどのものなんだ? まさかハッタリじゃないよな? チラリと、そう思った。ケンカの血が騒いだ。
平井が、くすくすと笑った。
「元気なんだな、伊呂波煥くん。銀髪の悪魔と呼ばれる最強の不良、か。青春だね。うらやましいよ」
「バカにしてるのか?」
「いやいや、カッコいいなと思ってね。だが、ハッタリではないよ。チカラを見てみたいかね?」
平井の全身がぶわっと膨れ上がる錯覚にとらわれた。平井の気が爆発的に噴き上がっている。
【息を殺すのと同じように、気を体内に抑え込んでいたのだ】
声が轟いた。有無を言わせず意識に飛び込んでくる声が。
理仁が青ざめている。
「な、何だ、この声? おれの号令《コマンド》と同じ?」
【似ているはずだよ、長江理仁くん。発する言語が属する次元が同じだからね。ただ、決定的な差がある。私の声のほうが、はるかに強い!】
鈴蘭も師央も反射的に耳をふさいだ。違う。耳から入ってくる音じゃない。凄まじい大声。押し潰されそうな圧力。
【ひざまずけ!】
一瞬、自意識が粉々になった。気付いたら、オレは畳の目を見つめていた。膝を屈して、頭を垂れている。
何だ、このチカラ?
【言っただろう? 私は割と全知全能だと。私の能力は、掌握《ルール》。人間はもちろん、神羅万象すべてを支配する】