「日本語で言うとヒアリングするには『ケイチョウ』する事が重要、とか言うらしいけど、イギリスではさらに『ユーモア』が会話を弾ませるスパイスとして必要なんだよね。例えば僕の駅長の帽子。スパイスとして効いていたでしょ。ユースケも僕を見習ってもっとリラックスして話せば？」

得意げに話すエルモをユースケはムッとした表情で睨んだ。

双子の事務員からの情報はこのような内容であった。

業績を上げていたアーバン投資は、その理由として西脇社長が競合会社の条件を上回る投資条件を提示し、顧客を奪っていたことが大きい。

そういった中で、下の階に最近頭角を現してきた関西系のエベレスト投資会社が東京進出を狙い引っ越しをしてきた。

エベレスト投資会社は逆に西脇社長のやり方をベンチマークし、さらに良い条件で顧客を奪うというやり方で、関西で顧客を奪っていた。

当然、西脇社長は敵対視し、開業準備を進める彼らに何かと文句をつけに行き、そこの所長と殴り合い寸前の喧嘩にまでなっていた。

発端は、その投資会社のドアの前にゴミがまかれていたことだが、確実な証拠があるわけではなく、西脇社長の仕業に違いない、ということでアーバン事務所にどなりこんできたのだ。

「そういえば、アーバン投資の営業マネージャーはまだ入院しているの？」エルモは相変わらず紅茶をすすっていた。

営業マネージャーとは、アーバン投資の辣腕営業担当の都丸である。都丸は、営業のエースとして、毎月トップの売上を出しており、実質的にナンバー２であった。アーバン投資の躍進は、都丸の存在があったからこそと言っても過言ではない。

双子の事務員によると、都丸は忘年会の最中に、年末にオープンする大型ショッピングセンターでトラブルが発生したという連絡があり、店には来なかったらしい。

その大型ショッピングセンターは、アーバン投資のこれまでで最大規模の投資先である。

そしてその帰りがけに交通事故に遭って、入院した。命に別状は無かったが、骨折の程度がひどく歩くことができないので、そのまま入院した。

「ああ、まだ入院中だよ。社長が死んだ時にはクライアント先にいたらしいから、アリバイはあるけど、都丸にも念のため聞き込みをする必要があるな」
　ユースケは、常に紳士的な雰囲気を漂わせた都丸を思い出した。いつも笑みを浮かべていて柔らかな物腰だが、一方で鋭い頭脳の持ち主で、その落差もあってか社内で女性のファンも多かった。

「そういえば明日エベレスト投資へ行くんでしょ？僕も同行させてよ。役に立つからさ。いや、実に美味しかった」

「お前、俺の菓子まで食った！」

机の上には空っぽの紅茶と皿だけが置いてあった。