「担当医も驚いていたよ。でも、捜査チームが消極的なのに俺もあんまり動くわけにいかないだろ。ま、そういうわけで、今回はお前に積極的に動いてほしいんだ」

見ていたメモを閉じた哲也が顔を上げてにっこり笑った。

ユースケは通い詰めていたアーバン投資会社が入っているビルを思い浮かべた。

1978年に建てられた築36年の雑居ビルで、昭和の面影が漂っていた。

各階には特徴のないすすけたベージュの壁と茶色の金属製の扉が無機質に配置されていた。

ちょうどビルの真ん中にエレベータが設置され、シンメトリーにエレベーターの両側に同じように各戸が配置されていた。

見た目が同じなので何回も訪問しているユースケさえも誤って別の会社の扉を開けたことも時々あった。

――部屋を間違えたって事か?

ユースケは社長が死んでいたビルのエレベーター前を思い浮かべた。

鉄製の古ぼけた事務所のドアは、旧式の金属のボタンを暗証番号入力して開錠するアナログ式の鍵がついている。どの階の部屋も確か全く同じデザインだが、掲げてある表札などは、微妙に違っている。

――毎日来ているのに部屋を間違える事はあるのか?

ユースケも何か違和感を感じた。今回ばかりはユースケも哲也と同意見だと感じた。それに西脇社長は自分のクライアント先の社長でもあり、真相を解明する責任があると感じた。