満元の新居はユースケの家から意外に近かった。

もともとユースケの家は古くから住宅地にあるが、バブル時に多くの土地が買収の対象となり、道路沿いには大型マンションが立ち並んだ。

ユースケも新聞と共に折込広告が挟まっているのを何度か見かけたが、まさかそこが満元の新居であるとは、思っていなかった。

哲也も満元に呼ばれており、事前に家に立ち寄るようにユースケの携帯の留守電に都丸からの伝言が入っていた。

哲也の家は昔ながらの果物屋で、昔は繁盛していたが、相次ぐ大型店の進出に今はお得意様相手だけに細々と商売を続けていた。

指示された時間に店に行くと、都丸の父親が開店の準備をしていた。

「にこにこくだもの 電話○×―△△42」と古ぼけたオレンジ色のファサードが掲げられ、ベニヤ板のような剥き出しの木の台の上に緑色のプラスチックのカゴが並べられ、りんごやみかんといったおなじみの果物が手書きの値札と共に並べられている。ここは昭和の時代のままであった。

都丸の父親がユースケに気付くと「お、ユースケ、久しぶりだな、坊主」と言った。その無骨な言い方は都丸によく似ていた。

「いや、もう子供では無いのですが…」

「今日、満元の坊主の新居のお祝いに行くんだって? いやー、ウチの息子もずっと一人モンで困っちまうわ!坊主が早くヨメもらわないからウチのバカ息子もまだ大丈夫だって思っちまうからよお、早くもらってくんねえかねえ?」

「は、はい……すみません……」つい謝ってしまうユースケであった。

「てーつー! おーい! 坊主きたぞー!」

哲也がとてつもなく大きなかごに入った果物の盛り合わせを抱えてよたよたと店の奥から出てきた。

果物の盛り合わせが入ったカゴが大きすぎて、哲也ほどの大男でも前がよく見えないほどである。

「オヤジ……これ大きすぎないか?」

「なんだと! テメエ、結婚のお祝いとくりゃあ、これじゃあ小さいくらいだあ!」

「いや、それは大きすぎる……」ユースケは思わずつぶやいたが、都丸の父親には聞こえていなかった。

「店で一番大きいカゴに入れたんだけどよお、やっぱりそれじゃあ足りねえから、別の袋にも入れといたんだがな……」

父親が持ってきた茶色の大袋には、ミカンやスイカ、メロンなどがあふれんばかりに入っていた。

しかも二つもあった。

ユースケは否応なく父親から二つの大袋を渡され、果物の山を哲也と一緒に新居まで運ぶことになった。

「おい……。お前の父親相変わらずだな…」

「ああ」

「お前によく似てるよな」

「似てないだろ」

「似てるって!」

「似てない、って俺何回も言ってるよな?それはそうと、ユースケも早く結婚しろ」

「やっぱおなじじゃないか」

「家でうるさいんだよ」

「俺が結婚したら、もっとうるさいだろ」

「あ……」

「よく考えろ」

「やっぱり結婚するな」

「どっちだよ!」

結局二人で騒いでいるうちに、満元のマンションに到着した。

できたばかりマンションは、一目見て新築だと分かった。玄関は石造りで広々としており高級感を醸し出していた。

「お! あいつ、なんだかイイとこ住んでるじゃねえか!」都丸が叫んだ。

実は同じ事をユースケも思っていた。ロビーは来客向けに今風のモダンなソファと椅子が置かれていた。ちょっとしたホテルのようであった。

都丸がとりあえず果物カゴを床に置き、オートロックで満元の部屋番号を入力すると、すぐに満元からのデレデレした返事とともに自動扉が開いた。

「エレベータで八階出てすぐ右の部屋なんで~。ヨロシク~」

「何が『ヨロシク~』だよ……。まったく、これだから新婚は……」都丸が果物のカゴを持ち上げ不満をもらした。

エレベータはすぐに見つかった。二人は果物の山を抱えて中に乗り込む。

「そういえば、満元の奥さん、けっこうな美人らしいぜ。チクショー、なんであいつばっかりイイ思いしやがって!」