「それはそうと、満元…。お前、帰ってくるなら事前に連絡してくれてもいいだろ」

「いや、これまた急に転勤で東京に戻る事になってな。びっくりさせようと思って。それに知らせなくてはならないこともあるし」

満元は急に背筋を伸ばし、白い封筒をまるで卒業証書を授与するように、大げさにユースケに渡した。

ユースケは渡された封筒を見た。封筒を裏返すと、満元と知らない女性の名前が連名で記載されていた。披露宴の招待状であった。

「俺も長い遠距離恋愛の末、独身時代にピリオドを打つことにしました! ワハハハ!」

満元はまるで正義の味方のように腰に手を当て、満面の笑顔をさらにくしゃくしゃにさせてのけぞった。 

「で、今週末に新居でお披露目パーチイなるものをすることになったから、お前も来いよな!」

満元はそれから、どのように出会ったか、どうやって遠距離恋愛を結婚まで昇華させたか、まるで結婚式での新郎スピーチの予行練習のように、始終笑いながら、怒涛のように話しはじめた。ユースケも結婚式の招待客のようにただうなずいた。

「お! もう会社に戻らないと! まだまだ話していない事があるから、続きは週末な!犬もいいけど、お前も早く落ち着けよな! あ、あと哲也も呼んだから、独身同士、仲良く一緒に来いよ!」

満元は、ニコニコと笑いながら走り去っていった。

後に残されたユースケは無言でその場に立ち尽くしていた。

ユースケの脇を、正月の準備でたくさんの買い物袋と稲わらの水引を持った家族連れが足早に通り過ぎて行った。子どもは母親に手をひかれつつ楽しそうに何やら話していた。

ユースケは通り過ぎる家族の様子を見ながら、エルモをつないでいたヒモをくるくると小さくまとめ、ポケットに入れてとぼとぼと家路についた。

家に帰るとすぐに、和子が「エルモが先に一匹で帰ってきたけどどうしたの」と聞いてきたが、ユースケは、それには答えず「仕事が立て込んでいるからしばらくエルモの散歩はやってほしい」と、言い残して自分の部屋に入ってしまった。