「犬好きな人に悪い人はいない、っていうことわざは日本にもあるよね」

人の姿に戻ったエルモが、帰り道、ユースケで歩きながら言った。

「それは、篠原社長の事を言っているわけ?」

「あの社長は殺っていないよ」

「何か、根拠があるのか。推測でモノを言っちゃいけないだろ」

急に、エルモは立ち止まり、ユースケの方を向いた。

「あのね、僕がそんな推測でモノを言うわけないでしょ。マルコム家は代々頭脳明晰でキチンと根拠があって、モノを言う家系なんだから。分かっていないみたいだから、もっと説明しようか?マルコム家は、そもそも……」

「あ~わかったわかった。自慢はもういい」ユースケはうんざりした顔で言った。

「どういう根拠なのか、説明してくれればいいから」

 途中で説明を遮られてエルモは少し不満そうであったが、また歩き出した。

「僕の鼻がね」

「は? 鼻?」

「ウソをつくとたちまち分かってしまう僕の素晴らしい嗅覚でもって、篠原社長は無罪と言っているんだよ」エルモは得意げに鼻を掻いた。

ユースケは、一瞬キツネにつままれたような顔をした。

「鼻……? 何だそれ……」


少し遠い公園の入り口から、帰宅途中らしい女子高生らがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

隣を見ると、エルモはすでに犬に戻りいそいそと尻尾をふりながら女子高生に近づいていた。

「いや、鼻が利くのは本当らしい」ユースケはつぶやいた。