不意にユースケはエルモが近くにいない事に気づいた。

エレベーターまで一緒に来たことは確かだが、その後ボンバー社の面接の混乱でいつの間にかいなくなっていた。ユースケが辺りを見回すと篠原社長がその様子を見て言った。

「ああ、兄さんのお連れのワンちゃんでっか。無事にあそこに」

ユースケが見ると、エルモは黄色い声をあげる若い女子社員らに囲まれていた。

そのうちの一人に抱っこされて、得意そうに尻尾を振っていた。

いつもこんな調子なのか、とユースケは苦々しい思いで見たが、そんな様子を見ているうちに、なぜかリラックスした気分になったのを感じた。

「今は探偵さんでも捜査にワンちゃんを使う時代なんやな。そんなテレビ番組もありましたっけ。ほら、あの主人公の女の子が鼻をクンクンさせて事件解決するやつ。あれ、おもろいから私も見てましたよ」

ユースケは探偵ではなく経営コンサルタントであるが、あえて否定はしなかった。

「それで……西脇社長とはどんなご関係だったのでしょうか」

「そうそう、それや。どんなご関係も何も、こっちが被害者ですわ」篠原社長は大きい眼をさらに大きくして、身を乗り出す。

「死んだ人を悪く言うなと言いますやろ。でもな、あの西脇はわしらの会社にしょっちゅう嫌がらせをしとってな……。あいつ、わしらの会社を目の敵にしとったんや。頼んでないピザやらそばやらが大量に出前で送られてきたり……。あ、うどんならいいんですけどね。大好物なんで」

「はあ」

「そやけど、郵便物が無くなったり。あと、会社の前に生ゴミ撒いとったりして」

「生ゴミ……ですか」

「最初は誰なのか分からなかったんやけどね、こっそり隠しカメラ設置したんですわ。そしたら、ちょっと映りはぼんやりしとったんやけど、あの西脇のオッサンが、生ゴミを撒いとったんが映っていたんです。それで、証拠だといって抗議しに行ったら、こんなん自分やないと言って、結局うやむやになってですね。ちょっと裁判起こそうか、という話にもなったんやけど、大阪の本社に報告したら、東京進出前に変な噂が立ったらあかん、という事で結局訴えることは辞めたんです。まったく、ひどい話ですわ」

ユースケは西脇社長が忘年会の時に、酒を飲まない従業員に、みかんの皮を投げつけて威嚇していた事を思い出した。確かにあの社長ならやりかねない、とユースケは思った。