「朝っぱらから何だよ……」

真庭ユースケはベッドの中で、ガンガンと頭痛がする頭でぼんやりと考えていた。

犬のガウガウと吠える声と携帯電話の耳につく呼び出し音。

しかし起き上がることができなかった。というのも、昨晩、西脇社長との飲み会で酒を浴びるほど飲まされたからだ。

もともとユースケは酒は強くはない。

それなのに経営コンサルタントとして独立したばかりで、大事なクライアントの社長から酒を勧められれば、断るわけにはいかない。

酒豪の社長からどんどん酒をつがれ、つぶれるのも時間の問題であった。

どうやって家に帰ったのかも覚えていない。

今、こうしてベッドにいるということは、何とか帰ることができたのだ。

ユースケはいつも断りきれずに相手のペースに飲まれてしまう事が悩みであった。

毎回思うのだが、結果はいつも同じ。今回も自分の優柔不断さを身に染みて感じた。

「痛い!」

何かがユースケの耳をかじった。

見ると、見慣れぬ白い毛並のムクムクとした犬が枕元に座って黒い眼でユースケを見ていた。

「ど、どこから入ってきたんだ!」

思わず犬をつかまえようとしたが、携帯電話のけたたましい着信音に気が付き、とっさに電話を取り上げた。

着信表示は同級生で刑事になった太田哲也。

ユースケはズキズキする頭と耳を押さえながら、電話を耳に当てた。

「のんきに寝てる場合か?お前のクライアントの社長が死んだのに!」

受話器から部屋中に聞こえんばかりの哲也の大声が耳をつく。思わずユースケは携帯電話を耳から遠ざけた。

――西脇社長が死んだ?

哲也が何を言っているのか最初は分からなかった。離した携帯電話からは相変わらず哲也のバカでかい声が聞こえている。

「だから、お前の客の西脇社長が会社のビルで今朝死んでいたんだよ! 昨日お前、会っていたらしいじゃあないか!」ユースケが考える間もなくたたみかけるように哲也が言った。

「お前は、最重要参考人なんだよ!」

ユースケは半信半疑で携帯電話を切った。

確かにユースケは昨夜西脇社長と一緒に飲んでいた。

しかし、その後酔いつぶれていつの間にか家に戻ってきてしまっていたため、西脇がその後どうなったのかさっぱり見当もつかない。

なんとか思い出そうと必死で記憶をたどったが、ぽっかりと穴が開いたように昨晩の記憶は抜けている。

――まさか俺が社長を……?ウソダロ??