花の香りとは別の、甘い酸味を含んだ重い香りが鼻を打つ。その香りはモルフォ蝶が何百と群れ集う、窪地の中央からしてきた。それにしても、物凄いモルフォ蝶の群落だ。よほど蝶たちにとって、魅惑的な餌なのだろう──
「蝶の癖にモルフォ蝶はあまり花の蜜を好まないって、知っていたかい?」
「……ええ、知ってますよ。綺麗な蝶々のイメージとはかけ離れたモノが好物なんですよね。例えば、腐った果物とか……動物の死体とかね……。」
唐突に後ろから掛けられた男の声にも麗亜は動じない。ゆっくりと振り返りながらもう一度、ピヨちゃんの位置を確認する。

「随分、長いトイレでしたね、笹野先生」