「今日は先生の奥様は?」
「ああ、言わなかったかい?出産で実家に帰ったよ」
妊娠中の妻の留守に浮気する男って、よくいるよね。女子大生の城崎麗亜(きのさきれいあ)は冷房の効いた居間で納得して腕組みした。7月の昼下がり。まだ30代前半のハンサムで女子学生にも人気のある、比較文化学の講師の自宅で、二人切りだ。
「それはお寂しいですね」
「いや、夫婦だからね。離れていてもどこかで繋がっているものだよ」
笹野先生は穏やかに微笑む。そして何かを思い付いたようにこう付け加えた。
「まるで楽園を追放されたアダムとイブのようにね」
まあ!ロマンチックですね!と若い娘なら言いそうなものを、なぜかこの時麗亜は全く別の事を言い出した。