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 丸く収まった毒殺事件だが、一つだけ困ったことがある。

 左衛門のお嬢様が、貸してあったジャージを返してくれたんだが、どういうわけか、特注の桐箱に入れて学校に持ってきやがったのだ。

「優一郎殿、ありがとうございました。本当に助かりました」

「はあ……」

 これどうするんだよ。

 返事に困っている俺を見て姫君が左手の人差し指を立てて微笑む。

「クリーニングはしてありますよ」

 いや、この桐箱のことなんだが。

 クラスのみんなもドーナツ状に距離をおいて俺たちに注目している。

 ほしい人……なんているわけないか。

 捨てるにしても教室のゴミ箱には入らないし、持って帰っても使い道はない。

 そもそも鞄にすら入らない。

 ジャージなんて、くるっと丸めてポイッとしまうだけでいいだろうに。

 結局、今は俺の部屋の本棚に立ててある。

 空っぽの額縁みたいで収まりが悪いんだが、使い道が見つかるまでは捨てられそうにない。

 困った名探偵殿だよ、まったく。

 (完)