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左衛門家の屋敷が見えてきた。
巨大な門の上に龍のような松の枝が覆い被さっていて、植木職人さんたちが三人がかりで手入れをしている。
親方らしいおじさんが脚立を降りてきた。
「これはお嬢様、お帰りなさいませ」
「村瀬さん、お疲れ様でございます。とてもいい仕上がりですね」
「ありがとうございます」
おじさんが脚立を動かして通用口の扉を押す。
左衛門のお嬢様はこちらを向いて左手を振った。
「では、萌乃さん、ごきげんよう」
「じゃあね、マコっちゃん。また明日」
そして、姫君は俺の方を向いて軽く頭を下げた。
「優一郎殿。今日はごちそうさまでした。たいへんおいしゅうございました。ジャージも洗ってお返しいたしますね」
「どういたしまして。二枚あるからいつでもいいぞ」
ご満足いただけたなら何よりだ。
財布には痛かったけど、平穏な高校生活が保障されるなら、これくらいのことは必要経費というものだ。