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 フードコートの外で待っていた二人に鯛焼きをもらった話をしたら、萌乃がうらやましがっていた。

「へえ、いいなあ」と言いつつおなかをなでる。「でも、あたし一個丸ごと食べておなかいっぱいだから二人で分けなよ」

「お店の方のせっかくのご厚意ですから、ありがたくいただきましょう」

 ショッピングモールを出たところで、姫君が並木道のベンチに腰掛けた。

 俺は立ったまま右手の人差し指を立てた。

「この鯛焼きは毒入りの特別製だ」

 俺を見上げる名探偵殿の目が輝く。

 そして、俺は頭と尻尾に分けて二つとも差し出した。

「どっちを選ぶ?」

「それはもちろん……」と名探偵殿は左手を挙げた。「遠慮して尻尾の方をいただきますわ」

 ということは、毒殺されるのは俺の方か。

 なんだか複雑な気分だな。

 でも、あんこの入っていない鯛焼きはうまくないし、まあ、いいか。

 かといって、俺の方もさっき半分食べたから、またあんこばかりというのも結構もたれそうだ。

 もそもそと口に押し込んでいると、姫君が口元を押さえながら声を上げた。

「まあ、これは一体どうしたことでしょう」

 何事かと見ると、名探偵殿の手の中にある鯛焼きの尻尾から栗が顔をのぞかせていたのだ。

 え、あれ?

 俺は自分の手に残る鯛焼きを半分に割った。

 中にはあんこしか入っていなかった。

 どういうことなんだ?

 栗はこっちに入ってるはずだよな。

 名探偵殿が立ち上がって俺の鯛焼きと自分のを見比べている。

「どうして栗がわたくしの方にあるのでしょうか」

 そんなの俺にも分かりませんよ。

「まあ、何だ……大当たりってことでいいんじゃないか」

 名探偵殿が満足そうに栗を口に入れて、ちょっとばかり横を向いてもごもごと口を動かしてから俺の方を向く。

「つまり、わたくしが毒殺されたというわけですね。わざと尻尾の方を選ばせて名探偵のわたくしを油断させる。さすが優一郎殿。名探偵の助手にふさわしい意表を突いたトリックですわね」

 いや、あの、俺が一番驚いてるんですけど。

 なんだかよく分からないけど、まあ、いいか。

 名探偵殿は左手の人差し指を立てて満面の笑みを浮かべた。

「She was poisoned by her assistant. 今日のところはこれで良しとしましょう」

 自分が毒殺されて満足する名探偵ってのもどうかと思うんだが、本人が一番喜んでいるんだから、終わり良ければすべて良しだ。

 萌乃が横でニヤけている。

「なんだよ」

「良かったね」

 全然納得はできないけど、名探偵の姫君がご機嫌なら何も言うことはない。

 颯爽と歩き出す名探偵殿の背中を俺たちも追いかけた。