その間、バッターボックスでは美空は粘っていた。
来る球を何度もファールにして、草太に八球も投げさせていた。

まるで『自分も俺のようにホームランを打つんだ』って思うようなバッティングではなく、『何としても塁に出るんだ』と伝わる美空の打席。
カウントもフルカウント。

そんな美空を桜も見ていたのか、桜は突然小さく呟く。

「人って、ホントに一人じゃ生きていけないよね」

「え?」

俺は驚いて桜の表情を確認すると、俺が今浮かべている辛そうな表情を桜も見せていた。
まるで鏡を見ているみたい。

桜は続ける。

「その親友の双子の兄ちゃんね、妹の意識の戻らない重体の中、自分は『妹を殺そうとした』って思われて逮捕された。そして一年間の謹慎生活。謹慎が明けたと思ったら、また高校三年生をやり直しだって。ホント、絵に描いたような地獄の人生を送っているっていうの・・・・・。私、橙磨くんに何度も支えられた。何度も慰められた。私、ももちゃんのショックで暫く高校に行けなかったのに」

苦しそうな小さな息を吐く桜は、最後にこう言って締めた。

「橙磨くんが居なかったら、自殺していたかも」

笑っているのか、呆れているのか俺にはわからない。
その滅茶苦茶な表情の桜の目には涙があった。

幼い頃から一緒で、ずっと俺を馬鹿にするような存在だったけど、桜の涙って見たことないかも。

小学生の時にずっと一緒に過ごした茜の泣いている所も、この前初めて見た。
草太の母に訴える茜の姿に、槍で突き刺されたような気持ちだったことを毎日のように思い出す。

無愛想で、何を考えているのかわからないおっとりした奴だったし。
何度いじめても、茜がことは見たことなかったし。

いや、きっと陰で泣いていたのかもしれない。
俺が居ないところで、誰も家族が帰っていない家で一人、毎日のように泣いていたのかもしれない。

そう考えたら俺、『茜や桜のことなんにも知らねぇんだな』って思った。
知っているつもりで生きてきたつもりだけど、それは大きな間違いだ。

難しいな、『人と仲良くする』って。
だったら『知らない方が、人間関係を築かない方が、よっぽど幸せなんじゃないか?』って、俺は思わされたけど・・・・・。

支えられて生きている俺の人生。
人間関係ないと、生きていけないのも事実。

母さんが俺をピアニストとして育ててれたから、俺は親父のプロデュースで初めてのアルバムを出す。
母さんがピアノを教えてくれなかったら、俺は茜と再会することはなかっだろう。

ホント、一人で生きるって難しい。
一人で生きようと意地を張るけど、結局は誰かに助けられる。

助けられてもまた意地張って、また助けられる。
『自分は一人で生きていけない』と理解するまで人はそれを繰り返す。

まるで俺のように・・・・・・。