「赤崎祭?」

あたしはその言葉を口にして、去年の出来事を思い出した。

毎年紅葉で真っ赤に染まる来月の十一月の後半。
二日に渡って、この街では秋祭りである『赤崎祭』が行われる。

様々な屋台が催され、習い事をしている子供達はそれを披露する。
他にも大人達は有志でみんなの前で何かを発表したりする。

まるでこの町全体の文化祭だ。

「そう。それで今年も城崎さんのカフェから屋台を出すんだって。毎年城崎さんが何を売り出すか考えてるらしいのだけど、城崎さん今スゴく忙しいし。最近いろいろあったから、私達に何を売るか考えてほしいって」

紗季が言う『いろいろあった』か・・・・・・。
確かにお母さんが倒れるなんて完全に想定外だ。

その祭りのために作られる屋台の料理は、毎年シロさんとあたしの両親で考えられて作られている。
そういえば去年も一昨年も、あたしも夜遅くにその会議に無理矢理参加させられたっけ。
何一つ案を出さなかったけど。

いや、出したとしてもお母さんはいつも鼻で笑っていたっけ。
その仕草に何か言い返そうと更に色々と案を出したけど、採用はされなかった。

そしてまた鼻で笑われた。
思い返したらいい記憶がない・・・・。

あたしは少しの悔しさを噛み締めると、紗季に問いかける。

「それで、茜と橙磨さんが作っているの?」

「うん。何を作るかまだ考え中だけど、『出来たら見せてほしい』って城崎さんにも言われているし。樹々ちゃんも何かいい案ないかな?」

何か無いかと言われても何も出てこないのが現状だ。
食べることに飢えていた日々もあったけど、『何が食べたい』とか、料理についてはあまり考えたことがない。

最近はお父さんが作る晩御飯を手伝ってはいるが、正直言って何を作っているかすら分からない。
食卓に並ぶ晩御飯を見て、初めて自分が作っていた料理が理解したほど料理には関心がなかった。

だからきっと、あたしが何を提案したら・・・・・。

「鼻で笑わない?」

そう思わそうで怖かった。

「へっ?」

紗季は驚いた表情を見せた。
冗談なのに。

「瑞季、去年なんだっけ?」

あたしの隣で何かを考えているような表情の瑞季に聞いてみた。
この事に関しては『料理人になりたい』という彼の方が適任だろう。

「去年は確かコロッケです。その前は串焼きだったような。あまりコストをかけたくないとか言ってましたし」

「なんか質素だね。でもそう思ったら難しく考えなくていいのかも」

そう言った紗季はが考える仕草を見せた後、キッチンから再び大きな物音が聞こえた。

同時に聞こえる茜の叫び声。
もう彼女は何をいっているかわからなかった。

でもこんな茜をあたしは今まで見たことない。
もしかしたら『こっちが本当の茜ではないか?』と、あたしはそんなことを思っていた。

それにしても、キッチンの状況を想像するだけで嫌な予感が漂うというのに、茜は一体お兄さんにどんな料理を食べさせたのか。
考えるだけで複雑な気分になった。