男女の違いなんて全く考えていなかった小学生時代、私は葵と愛藍と一緒によく遊んでいた。
本当にくだらないことをして遊んでいた。

柴田愛藍(シバタ アラン)という男の子は音楽一家の一人息子で、幼い頃からピアノを学んでいた。

でも昔は性格はあまり良くなく、周囲を困らせることしか考えていない問題児だった。毎日のように先生に怒られていた。

江島葵という男の子は、花屋さんを営む両親の間に生まれた。

身長が高く喧嘩が強いし、おまけに顔立ちもいい彼は女子から人気があった。
だけど彼は全く女の子に興味がなく、告白されてもすぐに断っていた。

愛藍と葵と私。
気が付けば三人で過ごす時間が殆どだった。

退屈という言葉が嫌いな葵と愛藍は、毎日変わったことを繰り返す毎日。

川に飛び込んだり、山へ探検。

それと様々な相手に喧嘩を売っていた。
勝てない喧嘩もあったが『毎日が楽しい』と、彼らは言っていた。

一方の私は喧嘩には参加せずに、彼らの戦いを後ろで見守っていた。
そして葵や愛藍が怪我を負ったら、傷口に絆創膏を貼っていた。

当時のお小遣いの一番の出費は近くのスーパーのお菓子ではなく、薬局の絆創膏だったというのは、ある意味いい思い出だったりする。

でもそれらは全て過去の出来事。
七年経った今は、連絡先すら知らない赤の他人だ。

どこの高校に通っているのかすら、今の私には全くわからない。

そしてこんな関係になってしまった原因は、七年前のある日のこと。
小学校で飼っていたウサギが死んでいたのがキッカケだった。

元気がないウサギを見た飼育委員の葵は私に質問。
『どうやったら元気になるかな?』って。

私も同じ飼育委員だった。
何故飼育委員になったのか分からないが、動物とかには興味がない。

知恵なんて何一つない。
だからそんな質問をされても、答えられるわけがなかった。

同時にその日は『早く帰りたい』という気持ちが強かったから、私はふと思い付いた言葉を投げた。『
花でも食べさせたら』って。

葵は即座に行動し、近くから見知らぬ花を拾ってきた。

花屋を営む葵だから、自分が拾ってきた花の名前を知っているかと思っていたが、まだ花屋として幼い彼にはまだ知識は無い。
だから葵自身も何の花かはわからない。

もちろん私も知らない花だ。
でも小さな白い花が無数に咲く小さな花だと言うことは、何故だか今でも鮮明に覚えている。

とても綺麗な花。
道端で見たことあるかも。
元気のないウサギだったが、その花を嗅ぐと食べ始めた。
まるでご馳走のように食べ始めた。

そして私達は安心してその場を離れた。
『明日になったらウサギは元気になっているかな?』って、少しだけ思いながら。