時間はまだ夕方の四時というのに、既に店内に人で溢れていた。
全部で三十人くらいだろうか。

年齢層は全体的に低く、成人をした大人もいれば私達と同じくらいの高校生の姿もある。
違和感なく会話する姿は見ていて新鮮で、変わった空間だった。

「飲み物注文しに行こうよ」

私は樹々に誘導されるまま、ドリンクが作られるカウンターへ向かう。

本来のこの店のあるべき姿は席での注文になるのだが、人の多いイベント中はカウンターでの受け付けになるようだ。
注文があれば、カウンター席で店員に伝えてその場で飲み物を受け取る。

カウンター席にも数人のお客さんが座っている。
一人で来ている人もいるらしく、カフェや喫茶店らしくコーヒーを片手に何かの作業をしている人も見えた。

こんな期間に一人で来店するなんて、『変わった人』だと思わされる。

そのカウンター席の中に、私達の高校の制服を着た学生もいた。
偶然にも同じクラスメイトだが、会話したことがない男子生徒。

名前は覚えていないが、校則違反の茶髪に男の子にしては小柄の体格。
そして落ち着いた雰囲気の人だと記憶にある。

いつも一人で過ごし、授業中や休み時間は常に寝ている、静かな男子生徒だ。

そんな彼を気にしながら、私はカウンターに貼られたメニューを確認。

コンビニや自販機で買うと、大したことのない金額で飲むことの出来るドリンクだが、それを店で飲む事によって、値段は倍に膨れ上がる。
裕福じゃない高校生には厳しい値段だ。

だけど今日はカフェ会というイベント。
チケット代として前払いしているため、ドリンクは飲み放題のようだ。

「あたし、レモンティーのアイス。茜は?」

「じゃあオレンジジュース」

テキトーに選んだ。
オレンジジュースが特別好きな訳ではない。

ドリンクを受け付けるカウンターの男の店員は私達に何も言わなかったが、笑顔を見せた。
グラスに氷を入れて、紙パックに入ったオレンジジュースを入れていく。

なんでもない作業なのに、プロという言葉を意識すると、なんでもないことが凄く感じてしまう。

『お待たせしました』と言う優しそうな店員の声と共に、頼んだオレンジジュースが仕上がった。
さらに『ごゆっくりどうぞ』と、店員の声に私は軽く頭を下げた。