(結) 黄金時代 (2) 箱舟建造
タテルゼの社内資料では当初の名称候補を
『NAGAYA』『SYAKUYA』『GESYUKU』等としていた。
しかしながら、
『NAGAYA』は激安商品なのに
『WAGAYA』と混同され過ぎる!と。
超のつく高額高級!宇宙住宅のステイタスシンボル性を重んじる富裕層から速攻でクレームが入った。
『GESYUKU』は
『強制収容所』(ゲットー)を想起させると。
かつて辛酸を舐めた被差別民族から苦情が届いた。
それではと。
設計図と外観予想図が公開されて。
有料『命名権』とセットで公募が行なわれ。
投票を経て決定された製品名は。
『 NORIMAKI 』
『 FUTOMAKI 』
『 KUSHIYAKI』
に、
『 INARI 』
『 NIGIRI 』
『 CHIRASHI 』に
『 DONBURI 』と、来たもんだ。
(むろん『命名権』を獲得したのは日系外食産業であった。)
基本構想発案者にして原図設計者のトキマサトは、腹を抱えて笑い転げた。
*
『 NORIMAKI 』は「個人」(単身)避難者用宇宙生活衛星だ。
ミニマムな空間にギッシリミッチリと。
『改良型・寝落ち椅子』たる通称『棺桶』ベッドが詰め込まれ。
狭く折れ曲がった通路は『蟹工船』かッ!と。
取材陣や『体験宿泊』ツアーに参加したボランティア勢からは。
たいそうな酷評を頂いた。
最低保証容積が一人あたま『1m×1m×2m』と。
極小なのだから居住性もへったくれも無い。
『 FUTOMAKI 』は、家族または一族単位でのグループ避難移住者用だ。
ひとり当たり最低保証容積『1m×1m×2m』×人数分。で用意され。
床に雑魚寝の広間型か。
三段ベッド状の『棺桶』が部屋の半分を占める『半個室』型かは、
それぞれの民族文化的背景別に、指定することが出来る。
(場合によっては一族中の男女別で連結二室式などの配分応用も可能)。
『 KUSHIYAKI』は、救済された野生動物たちのための『生態系保全』用。
別称はそのまま『ZOO』だった。
『 INARI 』は地表上に集められた避難民たちの。
一時待機宿泊&医療用の海洋船舶。
『 NIGIRI 』は地表⇔無重力高度までの往復用小型舟艇。
(部分的に付け外し式の使い捨て型)。
『 CHIRASHI 』と『 DONNBURI 』は、
『地表残留』か『地底に避難』を選ぶ人たち用の。
簡易だが堅牢な穴蔵居住ドームだ。
*
それまでタテルゼ社で宇宙邸宅建築に携わってきた技術者たちは。
異動先の希望を提出させられた。
『宇宙建築』部門に残留希望組はそのまま変更なし。
『 INARI 』と『 NIGIRI 』建造組への異動を希望した者たちは。
新設部門を『 FUNA-DAIKU 』組と命名された。
ドイツ人『棟梁』は団結式にあたって拳を突き上げて威勢よく叫んだ。
「フーナ・ダーィク!」
それはそのまま作業引継ぎ時などごとの、定番の合言葉となった。
『 CHIRASHI 』と『 DONNBURI 』は。
建造自体が地表での危険作業で。
最も困難な分野だ。
ごく少数の技術指導者たちの志願が募られた他は。
もっぱら地表残留の難民自身を採用して。
技術教育を施しながらの建設作業予定と公表された。
*
地表に細々と生存していた『良心的政府』や。
『人道NGO』などの活動拠点と連携が図られた。
旧カナダ中央山岳地帯や南米南部大平原。
南極大陸・豪州・旧ロシア氷原など。
比較的、地震や津波や原発災厄の被害が少なかった地域が、選定されて。
難民たちの一次収容と検疫のための施設が、着々と建造された。