砂浜に祭の炎が上がる。天空の星屑に届きそうなくらい、高々と。夜の真っ暗な波間に炎が映り込めば、それはまるで紅蓮の宝石。
 炎のそば踊ってるのはヒイアカだ。アタシたちにとってはステージガイドの彼女だけど、このホヌアという世界にとっては、神の血を引く踊り子なんだって。
 ひらめく手のひらは、可憐な恋の仕草。踏み出すつま先は、ふと、大人の色気をかもし出す。腰をくねらせれば、豊かなバストが揺れる。
 太鼓を叩くのはヒイアカの婚約者、ロヒアウ。太陽みたいに明るい笑顔と、堂々とした体格のイケメンだ。ヒイアカとはお似合いね。
 アタシは波打ち際に膝を抱えて座ってる。祭ににぎわうフアフアの村の人々を遠くから眺めて、ため息。
 人混みに入っていく気がしない。これがゲームだってわかってても。あそこにいるのは人間じゃなくてAIなんだって知ってても。
「よう、お姫さま」
「なによ?」
「ずいぶんご機嫌斜めだな」
 ラフが双剣を砂の上に置いて、アタシの隣に腰を下ろした。
「ナイスバディのヒイアカの踊り、目の前で見てなくていいの?」
「問題ねえよ。ニコルが最前列でムービーを撮ってるから。後で、サイドワールドの映像館で、たっぷり観賞する予定だ」
「バカよね、あんたたちって。うらやましいわ」
「お姫さまの『バカ』は誉め言葉だろ」
「うっさいわよ」
「はいはい、失礼しました」
 ラフの声は繊細だ。少し硬くて、少し高めで、どことなく少年っぽさが残ってる感じ。
 この声の持ち主はどんな顔をしてるんだろう? どこに住んでて、どんな生活をしてるの?
「ねえ、ラフ」
「ん?」
「……やっぱり、別にいい」
「なんだよ? 気になるだろ」
「気にしないで」
「お姫さま、言ってみろよ」
 ラフはアタシの隣から立って、アタシの正面に回り込んでひざまずいた。きらめく黒いまなざしが、まっすぐにアタシを見つめた。
 ほのかな影をまとったラフの顔は、肌の浅黒さも右頬の傷も、暗さにまぎれてしまう。貴公子みたいに端正な顔立ちだ。
 ただのCGなのに。
 その瞳がとても信頼できるように見えるから、アタシはラフから目をそらせない。言葉が、アタシの口からこぼれた。
「どうでもいいこと訊いていい?」