「……いってきます」
強い足取りでロケバスを出ると、奏世も丁度支度を終えて出てきたところだった。
「おはよう、奏世」
「おはよ、栞菜。今日から、精一杯アンリと灯を楽しもう」
「うん。今日から、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
深く、深くお辞儀する。
今日から私は真摯に作品と灯に向き合う。そして、灯としてアンリに向き合う。
撮影の終わるその日まで。
▽
映画の撮影はあっという間だった。
撮影は順調に進み、短期集中型ということもあり、秋にはクランクアップを迎えた。
撮影中、「栞菜」として奏世にもらった言葉はどれも鮮明に覚えている。
――デイシーンが多かったけどこの前のナイトシーン、板付きのショットがすごく良かった。立ち振る舞いだけで、灯らしさが出ていたよね。
――オンリーの台詞、あの時俺も隣の部屋で録ってたけどさ。栞菜、凄く入りこんでなかった?
――今日の、待ちショットから始まるところ。あそこの灯とアンリのぶつかり方が自分でもうまくいったと思うんだけど。栞菜もそう思わない?
毎晩、お風呂に浸かりながら反芻した言葉たち。
奏世の光になれたのか、少しでも魅せられたのか。未だに真意は分からない。けれど奏世からもらった言葉で、今までの鎧を着た「小鳥遊栞菜」が少しでも救われたと信じている。
映画の公開は年明けだ。きっと年末から映画のPRで奏世とまた仕事をすることが増えるだろう。自惚れるわけではないが、映画はきっと成功に終わる。
撮影期間の日々の思い出や感じたこと、想いはとてもじゃないけど言葉には表せない。表せないから、役者として灯に表現してもらった。想いを乗せ、灯は最後まで光を追い求めた。
さて、今度は環奈の番だ。
追い求めた光を、捕まえなくちゃいけない。
▽
「円花。テレビ観てもいい?」
「いいよ、奏世くんの出る番組?」
「うん、トーク番組に少しだけ出るみたいなの」
秋も深まり、紅葉の季節となったある日。
映画の撮影後、奏世はどうやらドラマの仕事が入ってしまったらしく、あれからまともに会うことがない。ゲスト出演と言っていたから、もう撮影は終わったかもしれないけれど。
そろそろまとまった時間を作ってちゃんと話したい。奏世の気持ちを知りたいし、私の気持ちも伝えたい。
ぼうっとそんなことを考えていたら、お目当ての番組が始まった。