「撮影は7月中旬から短期集中で予定しています。引き受けてくださいますか」
「是非、よろしくお願いします」
真っ先に奏世が頭を下げた。その勢いに刹那飲み込まれそうになったが、
「よろしくお願いします」
私も続けて頭を下げた。
その後、話の簡単な流れや撮影の詳細を説明され、最後に原作小説を渡された。
「それじゃあ、よろしく」
「ありがとうございました、よろしくお願いします」
監督を見送った後、私はようやく気を緩めたのだが、奏世は帰る気配を何故か見せない。そしてあろうことか、渡されたばかりの小説を読み始めた。
「え、ここで読むの?」
「かんなちゃん、この後何も予定ないでしょ?この厚さだったら1時間ちょっとで読み終わるだろうし。それからこの作品について話し合おうよ」
「……分かった」
奏世は、勿論原作があれば台本渡されるまで復読するのだが、まずは真っ新な状態で初めて読み終わった後の素直に感じたものを大切にしたいらしい。今回はW主演ということなので、私とも話し合いたいそうだ。
プライベートの浮ついた奏世は嫌いだけど、仕事モードの奏世は好きだ。その奏世が言うのであれば、私は素直に従う。
石川さんの文体は平易な文章ながら奥が深く、表現が多彩だ。それほど本も厚くなかったので、確かにあっという間に読み終えてしまった。
読み終えたタイミングはほぼ同時。それから二人は日が暮れるまで会議室で沢山話し合った。
この作品は色んな光を待つお話だ。その光は夢だったり、希望だったり、愛だったり。様々な形を通じて各々の光を探し求め、その瞬間を待つというもの。
私は灯(あかり)役、奏世はアンリ役だ。
作中で、灯とアンリは恋に落ち、愛に触れる。けれど愛を生むことより愛し続けることの方が困難で、二人を様々な困難が待ち受ける。家族、友情、夢、生別。アンリは灯を思って灯の元から離れるが、それは一方的で愛ではないと、灯はアンリを探しに出る。最後は再び二人は結ばれるが、それと同時に思わぬ光も当たることになる。
二人がメインだが、二人以外の光待つサブストーリーが幾つも並行して話は構成されている。
一つ一つの想いが切ないながらも愛おしく温かい作品だ。
奏世と多視点から作品を語り合いながら、ふと頭によぎったことがあった。
それは、作中で奏世と恋人同士になるという点。