一通りの検討が済んで、僕は夕食を作ることにした。冷凍枝豆が残っていたのでしばらく水にさらして解凍し、ご飯と一緒に炊く。味付けは塩と酒のシンプルなものにした。
次に昆布を水から火にかけて出汁を取り、油揚げは湯引きしてから鍋に入れる。沸騰しないように注意し、ある程度経ってから火を止めて味噌を入れる。最後に豆腐とねぎを加えて汁物は完成。
メインはサバを使うことにした。サバはぶつ切りにして塩、胡椒で下味を付けてから片栗粉をまぶす。フライパンにサラダ油を熱してからサバを焼く。全体に火が通ったら取り出し、さらに一口大に切った玉ねぎとにんじん、ピーマン、マイタケを火が通りにくいものから炒める。後はさっき取り出したサバを加えて、醤油と砂糖、黒酢を加えて餡かけ風に仕上げた。
料理が出来上がると、隆さんはリビングの椅子に座って運ばれてくるのをじっと待っていた。キッチンに彼女が来ないのは単に料理ができないからだ。本人曰く必要に駆られたらできると言っていたが、恐らくその時が来るのは大分先の話だろう。
「今日も旨そうだな。色映えも量も申し分ない!」
「隆さんもいつかこれくらい作れるように練習しましょうね」
「いただきます!」
僕の小言をスルーして、彼女は食べ始めた。幸せそうにご飯をほおばり、ものすごい勢いでおかずが減っていく。隆さんの分は僕より多めに装ってあるのだが、既に半分近くなくなっていた。まぁ、この顔を見られるならと思ってしまう自分がいるのも仕方ないのだが。
食事を終えて、一息つくと既に9時過ぎだった。帰宅の準備をしていると鞄のポケット部分にメモが挟まれているのを見つけた。隆さんからのものでないことはメモ用紙を見てすぐに分かった。可愛らしい猫のイラストが書かれたものだったからだ。
『明日、放課後に校門前で待っています。西』
メモを隆さんに見せようか迷ったが、やめておいた。翌日になれば理由もわかると思い、僕は真っすぐ自宅へと帰った。
翌日の放課後、僕はメモ通り校門前で待機した。待っている間、僕はカメラの調子を確かめていた。いつも持ち歩いてはいるが、撮影をすることは少ない。理由についてはまた別の機会にするとして、使わないでいると何処かしら悪くなるのでこうして定期的に手入れはしている。
「お待たせして、すいません」
西さんが息を切らしながら走ってきた。先に待っているとは想像していなかったようだ。
「大丈夫だよ。女の子を待たせるのも悪いと思って、早めに来ただけだから」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
僕たちはそのまま写真館とは反対方向へ向かった。行先は昨日行ったばかりの場所だ。依頼の根源、西さんの家だ。何故僕だけが招待されたかは分からないが、それは後で聞けば良い。
20分ほど歩くと昨日は開いていなかった貸衣装屋の入り口が見えた。
「ただいま」
扉を開けると色々な衣装がずらりと並んでいた。壁には七五三や結婚写真、家族写真など何枚か写真が飾られており、懐かしい雰囲気が漂っている。
「おかえりなさい。あら、後ろの子は学校のお友達?」
西さんのお母さんらしき人がこちらに気づき、出迎えてくれた。
「こんにちは。西さんと同じクラスの坂本です。今日は西さんに勉強を教えてもらうためにお邪魔しました」
「坂本君、数学が赤点の常連だから何とかしてくれってお願いされたの」
「そうなの。お店があって何のお構いもできないけど、ゆっくりしていってね」
勿論これは嘘である。数学が赤点だらけなのは事実だが、今回僕が招待されたのは勉強が目的ではない。この会話は予め西さんから言うように指示されていたもので僕たちの目的はあくまで別にある。
「じゃあ、奥に行って勉強してくるね。坂本君、こっち」
「うん。ありがとう」
僕は西さんの案内で店の奥へと向かった。昔ながらの和風で畳が敷かれた部屋が多かった。しばらく歩くと西さんがある部屋の前で足を止めた。
「ここがお祖母ちゃんの部屋よ。今日は昼から商店街の寄り合いで出かけているから大丈夫」
「部屋を見るのは良いけど、隆さんも一緒の方が良かったんじゃない?」
「坂本くんなら言い訳できるけど、織田さんだとどう言い訳しても変な勘繰りを入れられそうだから」
今回、僕が西さんの家に来たのは件のお祖母さんの部屋を見て欲しいと頼まれたからだ。家族以外の人間の視点から意見が欲しいということらしい。依頼とはいえ、他人の部屋へ許可なく入ることに抵抗はあったが、覚悟を決めた。
「お邪魔します・・・」
中央にはベッドがあり、それを起点に家具が置かれていた。荷物自体は多くなく、目についたのは小さな仏壇だけだった。仏壇の上には例の写真が置いてあった。写真には若い男性と女性、それに赤ちゃんが映っていた。
「これが西さんのおばあさんが帰ってきたって言った人かな?」
西さんの話ではお祖父さんは数年前に他界して、その後からお祖母さんがおかしくなったと言っていたけど・・・何故だか僕はその写真を見て違和感を感じた。ただ、その違和感がなんなのか、あと少しで分かりそうな時に西さんが話しかけてきた。
「坂本くん、ごめん。もうすぐお祖母ちゃんが帰ってきそうだから、部屋から出てくれる?」
「わ、分かった」
僕はお祖母さんの部屋から出ると、西さんの案内で居間まで向かった。一応勉強という名目なのでそこからは2時間ほど数学の勉強をすることにした。西さんは僕が赤点の常連だということを知っていたので、ほとんど僕が教わる形で時間が過ぎた。
18時くらいになった時、西さんのお母さんが夕飯を食べていくかと勧めてくれた。返事を返そうとした瞬間、僕は夕飯の準備をすっかり忘れていたことに気が付いた。
慌てて荷物を鞄に詰め、西さんには後で部屋を見たときの印象を連絡すると伝えて、僕は西さんの家を後にした。
写真館に着くころには19時半近くになっていて、中に入ると、僕のことを恨めしそうに見つめる隆さんが玄関で待っていたのだった。
次に昆布を水から火にかけて出汁を取り、油揚げは湯引きしてから鍋に入れる。沸騰しないように注意し、ある程度経ってから火を止めて味噌を入れる。最後に豆腐とねぎを加えて汁物は完成。
メインはサバを使うことにした。サバはぶつ切りにして塩、胡椒で下味を付けてから片栗粉をまぶす。フライパンにサラダ油を熱してからサバを焼く。全体に火が通ったら取り出し、さらに一口大に切った玉ねぎとにんじん、ピーマン、マイタケを火が通りにくいものから炒める。後はさっき取り出したサバを加えて、醤油と砂糖、黒酢を加えて餡かけ風に仕上げた。
料理が出来上がると、隆さんはリビングの椅子に座って運ばれてくるのをじっと待っていた。キッチンに彼女が来ないのは単に料理ができないからだ。本人曰く必要に駆られたらできると言っていたが、恐らくその時が来るのは大分先の話だろう。
「今日も旨そうだな。色映えも量も申し分ない!」
「隆さんもいつかこれくらい作れるように練習しましょうね」
「いただきます!」
僕の小言をスルーして、彼女は食べ始めた。幸せそうにご飯をほおばり、ものすごい勢いでおかずが減っていく。隆さんの分は僕より多めに装ってあるのだが、既に半分近くなくなっていた。まぁ、この顔を見られるならと思ってしまう自分がいるのも仕方ないのだが。
食事を終えて、一息つくと既に9時過ぎだった。帰宅の準備をしていると鞄のポケット部分にメモが挟まれているのを見つけた。隆さんからのものでないことはメモ用紙を見てすぐに分かった。可愛らしい猫のイラストが書かれたものだったからだ。
『明日、放課後に校門前で待っています。西』
メモを隆さんに見せようか迷ったが、やめておいた。翌日になれば理由もわかると思い、僕は真っすぐ自宅へと帰った。
翌日の放課後、僕はメモ通り校門前で待機した。待っている間、僕はカメラの調子を確かめていた。いつも持ち歩いてはいるが、撮影をすることは少ない。理由についてはまた別の機会にするとして、使わないでいると何処かしら悪くなるのでこうして定期的に手入れはしている。
「お待たせして、すいません」
西さんが息を切らしながら走ってきた。先に待っているとは想像していなかったようだ。
「大丈夫だよ。女の子を待たせるのも悪いと思って、早めに来ただけだから」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
僕たちはそのまま写真館とは反対方向へ向かった。行先は昨日行ったばかりの場所だ。依頼の根源、西さんの家だ。何故僕だけが招待されたかは分からないが、それは後で聞けば良い。
20分ほど歩くと昨日は開いていなかった貸衣装屋の入り口が見えた。
「ただいま」
扉を開けると色々な衣装がずらりと並んでいた。壁には七五三や結婚写真、家族写真など何枚か写真が飾られており、懐かしい雰囲気が漂っている。
「おかえりなさい。あら、後ろの子は学校のお友達?」
西さんのお母さんらしき人がこちらに気づき、出迎えてくれた。
「こんにちは。西さんと同じクラスの坂本です。今日は西さんに勉強を教えてもらうためにお邪魔しました」
「坂本君、数学が赤点の常連だから何とかしてくれってお願いされたの」
「そうなの。お店があって何のお構いもできないけど、ゆっくりしていってね」
勿論これは嘘である。数学が赤点だらけなのは事実だが、今回僕が招待されたのは勉強が目的ではない。この会話は予め西さんから言うように指示されていたもので僕たちの目的はあくまで別にある。
「じゃあ、奥に行って勉強してくるね。坂本君、こっち」
「うん。ありがとう」
僕は西さんの案内で店の奥へと向かった。昔ながらの和風で畳が敷かれた部屋が多かった。しばらく歩くと西さんがある部屋の前で足を止めた。
「ここがお祖母ちゃんの部屋よ。今日は昼から商店街の寄り合いで出かけているから大丈夫」
「部屋を見るのは良いけど、隆さんも一緒の方が良かったんじゃない?」
「坂本くんなら言い訳できるけど、織田さんだとどう言い訳しても変な勘繰りを入れられそうだから」
今回、僕が西さんの家に来たのは件のお祖母さんの部屋を見て欲しいと頼まれたからだ。家族以外の人間の視点から意見が欲しいということらしい。依頼とはいえ、他人の部屋へ許可なく入ることに抵抗はあったが、覚悟を決めた。
「お邪魔します・・・」
中央にはベッドがあり、それを起点に家具が置かれていた。荷物自体は多くなく、目についたのは小さな仏壇だけだった。仏壇の上には例の写真が置いてあった。写真には若い男性と女性、それに赤ちゃんが映っていた。
「これが西さんのおばあさんが帰ってきたって言った人かな?」
西さんの話ではお祖父さんは数年前に他界して、その後からお祖母さんがおかしくなったと言っていたけど・・・何故だか僕はその写真を見て違和感を感じた。ただ、その違和感がなんなのか、あと少しで分かりそうな時に西さんが話しかけてきた。
「坂本くん、ごめん。もうすぐお祖母ちゃんが帰ってきそうだから、部屋から出てくれる?」
「わ、分かった」
僕はお祖母さんの部屋から出ると、西さんの案内で居間まで向かった。一応勉強という名目なのでそこからは2時間ほど数学の勉強をすることにした。西さんは僕が赤点の常連だということを知っていたので、ほとんど僕が教わる形で時間が過ぎた。
18時くらいになった時、西さんのお母さんが夕飯を食べていくかと勧めてくれた。返事を返そうとした瞬間、僕は夕飯の準備をすっかり忘れていたことに気が付いた。
慌てて荷物を鞄に詰め、西さんには後で部屋を見たときの印象を連絡すると伝えて、僕は西さんの家を後にした。
写真館に着くころには19時半近くになっていて、中に入ると、僕のことを恨めしそうに見つめる隆さんが玄関で待っていたのだった。