夜、暗い窓に映るぼくたちは恋人にみえるだろうか、夫婦にみえるだろうか。結婚三年目、新婚というには微妙なこなれ感はある。

「飲んでも、本当にいいの? 今夜はキミの番なのに」

 こくんとうなずく妻。今日は月に一度の外食の日だ。代行を頼むほど酒が好きというわけではないぼくたちは交代で車のキーを預かる。ぼくが運転して妻がアルコールを頼む、その次は妻が運転してぼくが飲む。そんな暗黙のルールができていた。今夜は彼女が飲む番なのだが、妻がなにを遠慮しているのかはわからない。玄関でぼくより先にキーを取ると運転席に乗り込んだ。今日はぼくが運転当番だよと交代を促しても無言だった。

 今夜はどこかこう、よそよそしい。唇を半開きにして何か言おうと息を吸いこんだのに口をつぐむ。目を合わせてもすぐに逸らす。隠し事をしている風があるのだ。食べに行こうと約束した昨日はなんともなかった。でもいってきますのキスはどこか上の空だった。ということは彼女に変化が生じたのは、朝?

 今朝の出来事を思い出す。いつものトーストをかじり、いつものコーヒーを飲んだ。いつものテレビはいつものお天気キャスターが今日の予報を読み上げていた。

『今夜は雪になるでしょう』

 今日の風は冷たく凍てついて、頬を刺した。得意先を回りながら降らないといいなあ、と空を見上げた。去年は足を取られて歩道で転び、ランドセルを背負った子どもに笑われた。打った尻も痛かった。そうか、帰りの路面を心配してのことか、と思った。彼女は雪国の出身だ。雪面の運転も慣れている。かくいうぼくは都会育ちで雪はおろか車の運転にも慣れていない。こうして地方転勤になって、車に頼らざるを得ない田舎で、どうにかハンドルを握り、会社に行き、仕事をして帰ってくる。そんな毎日を繰り返して、苦手だった交差点の右折も車庫入れももうお手のものだ。しかし雪となれば話は別。これから降るであろう雪に備えて彼女が運転を買ってでてくれた、との推測に行きついた。