壇上の夏目彼方を見ながら、正直そう思った――。
新入生たちはまず、的場のほうへ案内された。そこからしばらく、道場内の先輩たちの射を眺める。

大人っぽいな……。みんな凛としている。袴姿がサマになっていてカッコいい。

僕たちは、修学旅行生が名所を見たあと次の目的地に向かうときのように、先輩に先導され、ぞろぞろと道場に向かった。

のちのち思い返せば、これは入部を勧めるための大サービスだったのだろう。道場内の先輩たちは練習を中断して、みんな笑顔で新入生の見学者を迎えてくれた。何人かの先輩たちが弓具庫(きゅうぐこ)から弓を持ち出してくる。

「さあ、今日は特別に、実際に弓を引いてみてくれ」
僕たちに、派手さはないものの誠実そうな主将が呼びかける。
「もちろん、いきなり矢を射ることはできないから、今日のところは矢を番えずに、そのまま引いてみようか」

落ち着かない表情の新入生たちが、戸惑い気味に弓を受け取っていく。

「重さの違う弓を何本か用意してもらったから、いろいろ引き比べて試してごらん。ええと、これは十一キロ……男子はこれを使ってみてよ。女子はこっちの七キロのがいいね」

十一キロ? 弓ってそんなに重いのか、と思っていたら、どうやらこの数字は弓の重量ではなく、引くときにかかる力を表すらしい。

僕たちはそれぞれ、近くにいた先輩に弦を張ってもらう。そして制服姿のまま、矢のない弓を持ち、射位(しゃい)に並んだ。左足が的に向いた、半身の状態だ。

ちょうど目の前に、小柄な女の子が立った。

あれ、こんな子、いたかな? 道場前に集合したときには気づかなかった。ひょっとしたら、他の人間の背に隠れて見えていなかったのかもしれない。
今、彼女のつむじは僕の喉仏くらいの高さにある。

そのときはまだ、名前さえも知らなかった女の子。真野あずみだった。

ふと、彼女は体をひねり、振り返って僕を見上げた。
長いまつげ。大きな瞳。しっとりとした唇。白く透き通った肌。肩にかかるくらいのサラサラとしたきれいな黒のストレート。

僕の目は彼女に釘づけになり、息が止まる。数えれば一秒足らずのごくわずかな時間。