午後の授業が終わるとすぐに、昇降口で靴を履き替え、右手側に駆け出す。
正面に弓道場の敷地が見えた。駐輪場と並んで小高い丘の端に位置するため、がけ側には木々が生い茂っている。

グラウンドからはバットが硬球を打つ甲高い音が聞こえた。音楽室からは吹奏楽部のパート練習。そして弓道場からは、安土(あづち)にかかった的を矢が瞬時に射抜くときの痛快な響き。

射場(しゃじょう)の反対側、的場(まとば)一瞥(いちべつ)し、そのまま道場の入り口に向かう。

屋根のついた道場に、二十名ほどの先輩たちが袴姿で並んでいた。
高校の入学式を終えて四日経ち、さっそく部活動の見学と仮入部が始まる。
中学時代はサッカー部だった僕が、なぜ高校では弓道を? その理由をはっきりと答えることはできないけれど……たぶん心のどこかに、新しいことを始めたい、そして自分を変えてみたいという漠然とした思いがあったからかもしれない。

道場前で男女ふたりの先輩が僕たち見学者を迎えてくれた。
息を整え、既に集まっていた他の新入生とともに先輩たちの前に並ぶ。

弓道部を見学に来た新入生は、男女合わせて十五人ほど。中学時代からの友人同士と思われるグループもいたものの、多くは個々の意志で集まっているようで、互いにどう声をかけ合ってよいかわからず、皆きまりが悪そうにもじもじとしている。かく言う僕も、元来の人見知りのせいで、足元から視線を上げられなかった。

そんなとき、背後からスニーカーの軽快なステップが聞こえた。
「すみません、遅れました。
引佐(いなさ)中学』出身、17HRの夏目彼方(なつめかなた)です。袴をはいて矢を射る先輩たちに憧れてここを選びました。弓道部に入部させてください。よろしくお願いします!」

振り返ると、ひとりの男子が笑みを浮かべて立っていた。百八十センチ近くあるだろうか。無駄な肉付きのない、すらりとした長身だ。

先に集まっていた新入生女子たちが、互いに顔を見合わせて色めき立つ。つい先ほどまでぎこちなかった場の雰囲気が一瞬でゆるんだ。