翔平はアームチェアの背もたれを戻し、自分のマグカップから苦いコーヒーを飲みつつ座った。その目はもう眠そうではなく、興味を持ったものに対してだけ彼が見せる真面目な表情で、パソコンのマウスを操作する。すぐに防犯カメラの映像をモニタに表示させて、凛子の方に向けた。
「どうぞ、刑事さん」
凛子は腰を曲げてモニタに顔を近づけた。翔平が再生ボタンをクリックし、右上に午前二時〇分〇秒と表示された夜の映像が動き出す。
映像には、ライトで照らされたこの五階建てマンションの入り口と、整然と並んだ集合ポストのほかに、前の歩道と車道の一部も映っていた。深夜の住宅街の外れとあってか、数分見ていたが、人通りも車通りもない。
「早送りして」
翔平は黙って早送りボタンをクリックした。早送り特有、映像が粗くなったが、モニタにはなんの変化もない。そう思った直後、モニタの右から左へと、人影のようなものが横切った。
「あっ」
翔平が声を上げると同時に、凛子が「止めて!」と叫ぶように言った。
「今の映像をもう一度見せて」
翔平は黙って言われた通り数秒巻き戻した。再生すると、キャップ帽を被った黒っぽい服装の男が、画面右側から走ってくる様子が映し出された。男が画面左側に消えたところで再び巻き戻し、男が中央に戻ったところで一時停止ボタンをクリックする。紺色のレインコートと黒っぽいズボン、それに黒のレインブーツを履いた全力疾走中の男が、走っている姿勢のまま停止した。男はレインコートの上から大きなリュックを背負っている。
「この男だわ! 顔は……よく見えないわね。マンションのオーナーで探偵事務所の所長のくせに、こんなショボい映像の防犯カメラしか設置してないなんて」
凛子がぶつぶつと文句を言い、翔平はため息交じりに言い返す。
「夜だから仕方ないだろう。それにどうせ科捜研で処理して鮮明な映像にできるんだろ」
「まあそうだけど。でも、時間がかかるのよ」
そう答えつつ、凛子は首を傾げたり目を細めたりしながら映像の男を見ている。翔平は左肘をデスクに突いて手で顎を支えながらぶつぶつと言う。
「マンション前の街路樹と比較すると、男の身長は一七五センチくらいだろうな。年齢は……二十代後半から三十代くらいか? 右手に……なにか持ってるな。なにかの包み……? いや、なんだ?」
「どうぞ、刑事さん」
凛子は腰を曲げてモニタに顔を近づけた。翔平が再生ボタンをクリックし、右上に午前二時〇分〇秒と表示された夜の映像が動き出す。
映像には、ライトで照らされたこの五階建てマンションの入り口と、整然と並んだ集合ポストのほかに、前の歩道と車道の一部も映っていた。深夜の住宅街の外れとあってか、数分見ていたが、人通りも車通りもない。
「早送りして」
翔平は黙って早送りボタンをクリックした。早送り特有、映像が粗くなったが、モニタにはなんの変化もない。そう思った直後、モニタの右から左へと、人影のようなものが横切った。
「あっ」
翔平が声を上げると同時に、凛子が「止めて!」と叫ぶように言った。
「今の映像をもう一度見せて」
翔平は黙って言われた通り数秒巻き戻した。再生すると、キャップ帽を被った黒っぽい服装の男が、画面右側から走ってくる様子が映し出された。男が画面左側に消えたところで再び巻き戻し、男が中央に戻ったところで一時停止ボタンをクリックする。紺色のレインコートと黒っぽいズボン、それに黒のレインブーツを履いた全力疾走中の男が、走っている姿勢のまま停止した。男はレインコートの上から大きなリュックを背負っている。
「この男だわ! 顔は……よく見えないわね。マンションのオーナーで探偵事務所の所長のくせに、こんなショボい映像の防犯カメラしか設置してないなんて」
凛子がぶつぶつと文句を言い、翔平はため息交じりに言い返す。
「夜だから仕方ないだろう。それにどうせ科捜研で処理して鮮明な映像にできるんだろ」
「まあそうだけど。でも、時間がかかるのよ」
そう答えつつ、凛子は首を傾げたり目を細めたりしながら映像の男を見ている。翔平は左肘をデスクに突いて手で顎を支えながらぶつぶつと言う。
「マンション前の街路樹と比較すると、男の身長は一七五センチくらいだろうな。年齢は……二十代後半から三十代くらいか? 右手に……なにか持ってるな。なにかの包み……? いや、なんだ?」