「婚約者とは高校時代から付き合ってたんだけど……もともと私が刑事を続けることに反対で、結婚したら内勤に異動してほしいって言われてたの。私が顔を傷つけられて、それでも仕事を辞めないって言ったら、婚約破棄された。『おまえは妻にも母にも向かないよ』って言われて……私、もういろいろ無理なんだろうなって諦めかけてた。でも、翔平が『正義に燃える凛子は誰よりもきれいだ』って言ってくれて、すごく嬉しかった」
 凛子は言葉を切り、翔平にチラッと視線を送る。
「まだ諦めなくていいかな? 私、まだ恋をしてもいいと思う?」
 翔平は頬を緩めて頷いた。
「もちろん」
 凛子の横顔が微笑んだ。そうしていたずらっぽい笑顔で翔平を見る。
「でもね、飽きっぽい人は遠慮しようと思ってるの」
「え?」
「じゃあね!」
 凛子が事務所のドアを開け、背中を向けたまま左手を振った。ドアがバタンと閉まり、翔平はため息をつく。
「俺は凛子に関しては飽きっぽくないんだぞ。凛子のことを初めてかわいいって思ったのは、凛子とケイドロをして遊んでいた頃だったんだから……」
 翔平は目を閉じて、アームチェアに背中を預けた。
 ただの幼馴染みという関係からいつ脱出できるかは、さしものダメンズ探偵にもわからない。