「わぁ……重いね……」
「重いわよね。でも、今も昔も、人は愛に振り回されるのは一緒だと思うと、なんだかそこにロマンを感じない?」
「ロマンを感じるから、さくちゃんは歴史が好きなのね」
「そうなの! いっちゃんも神様と結婚するなんてロマンに溢れてるわ。あ、もし結婚式をやるなら招待してね」

 神様たちの結婚式に参加は難しいかもと続けたさくちゃんに、「母様に確認してみるね」と伝えて、私たち手を振り合い別れた。

 私が考えさせてほしいと告げたため、母様からは婚姻を結べと言われたのみで終わっている。
 式をやるような話は聞いていないし、そもそも神様たちの結婚式がどのように行われるのかを私は知らないのだ。
 もし結婚式をするなら、ぜひさくちゃんには参列してもらいたい。
 人が参加するのは難しいのならば、何か手立てがないかも尋ねようと考えながらおはらい町を歩き、宿の皆へと選んだ手土産は【へんばや商店】のへんば餅だ。
 白い餅にはこんがりとした焼き色がつき、中にはこし餡が入っている。
 素朴な味わいが人気の伊勢の名物餅と、ミヅハにはお礼用にもう一品、伊勢では初のプリン専門店【プリンと食パンの鉄人】で販売している瓶入りの伊勢プリンをゲットした。
 プリンは楽しんでもらえるように、なめらかとレトロの二種類を選択。

「喜んでくれるといいな」

 受け取るミヅハの反応を想像し、期待をそっと舌の上で転がした時だ

「──」

 近くから呼ぶ声がした気がして足を止める。
 平日でも賑わいのある道中を見回すも、私に声をかけたような人は見当たらず、ならばあやかしの類だろうかと視線を下げてみたり屋根の上を見上げてみるものの、やはりそれらしき者の姿はない。

 おかしいなと思ったところで、ふと気づく。
 呼び声は、私の名を音に乗せてはいなかった。
 けれど、確かに呼ばれた気がしたのだ。
 しかし、その声が男性であるか女性であるかも定かではない。
 なんとも不思議な感覚に首を捻る私に、再び声は聞こえることはなく、一体何だったのかという疑問を胸に、天のいわ屋への帰路を辿った。