ナガトとまなみさんが出会ったのは、大学に入学してすぐだったと、彼女は言った。
学部や学科、更には偶然アルバイト先までも同じで、話す機会が増えていったという。
まなみさんはナガトが人生を謳歌している姿や、どんなに困難なことに直面しても、前向きに進む姿に、次第に惹かれていったらしい。
一回生の終わりごろ、二人は付き合うことになった。
ナガトとは趣味も話も合い、まさに運命を感じていたのだそう。
社会人になってからも、二人の縁は切れることがなかった。
二十四歳の冬、まなみさんは上から転勤を命じられた。かなり離れた土地のため、遠距離恋愛になるかもしれないと告げると、ナガトからプロポーズされたと。
ナガト自身も、なんとか近くに住めるようにしようと言ってくれたらしい。
そして、まだどこに住むかを決める手前、ナガトは死んだ。
工事現場の近くを歩いていたところ、上から鉄骨が落ちてきて、即死だったそう。
神様がナガトの命はここまでだと言わんばかりに。
まなみさんはナガトのことを心から愛していた。
そのため、その傷はずっと癒えなかった。
一人闇の中に取り残され、孤独でたまらなかったと。
周囲の人に支えられ、なんとか仕事は行くことができたらしいが、常に上の空で、転勤先でも失敗ばかりだったという。
もう一生好きな人も恋人も夫もいらないと、固く心を閉ざしていた。失った悲しみは、日に日に増すばかり。
そんな中で、一際まなみさんを支えたのが、今の旦那さんだったそう。
旦那さんは転勤してきたまなみさんに一目惚れし、噂で聞いた彼女の辛い過去を知った。
それからは全力でまなみさんを励ましてくれ、時間をかけて心の扉を開けてくれたらしい。
それでも、やはり傷跡は残っている。今はもう三十代半ばに差し掛かるらしいが、ふとした時に思い出しては辛くなるのだそう。
旦那さんのことを愛してはいても、あの頃の最大の愛と傷を、忘れられない。今もずっと、心のどこかで探していると、彼女は言った。
まなみさんの痛みは、計り知れない。両親を亡くした私でも、同情していいものとは思えなかった。
辛くて苦しくて、どうしようもない思いに襲われる。どこに行っても失ったものは帰ってきてはくれなくて、残された自分は、一人で孤独に生きているのだ。
私はここで諦めてしまった。死を選んだ。
けれど、まなみさんは再び進んでいる。心に傷を負い、もがきながらも、生きている。抗えない時間の流れを恨みながらも、その流れに従って彼女は生きている。
一つだけ彼女に聞いた。死にたくはなかったのかと。
「死にたかった。純のところに行くことができたなら、どんなに幸せだろうって」
「ならどうして……」
「思い出したの。純がいつも言ってたこと。『辛いのも苦しいのも、喜びも幸せも、生きている人の特権だ。死んだら何も生まれない。人生は辛い時もあるけれど、必ず次は幸せが来る。そういうサイクルがある。とてつもなく辛いことが長く続けば、次は大きな幸せが延々と続くんだ。そういうものなんだ』って」
まなみさんは涙を流しながら話してくれた。
合点がいく。なんせ、この短い期間で、私もナガトに心を救われていた。それも幾度も。
それが数年間に及ぶのならば、洗脳されていてもおかしくはない。
まなみさんは最後に、ナガトが探していたとはどういうことかと聞いた。
動揺していて、なんと説明すれば良いのかわからなかったが、そのままのことを話した。
「ナガトは、まなみさんに会いたいって言ってたんです」
いつ、とは言わなかったし聞かれなかったけれど、まなみさんは綺麗な表情で微笑んでいた。
その笑みは、しっかりと今を生きていた。